いいえ。
私はきっと、ずっと許さない。
弱かった自分を、何もできなかったあの日を、守られるだけだった怠惰を。





生きる。
それでも、かあさんは私を守ってくれた。
だからもう捨てない。





生きて、いくわ。

もう二度と、同じようには失いたくない。
そして誰にも、私の死によって、あの日の私と同じ重荷を負わせたくない。

何もできなかった、何もしてあげられなかった。
与えられるばかりのうちに手の届かなくなってしまった日の、あの灼けつくような痛み苦しみ。

私が、誰かに何かを、少しでも与えられるかはわからない。
でも、私を見て、私に触れ、私と言葉をかわしてくれるひとが、まだ確かにいる。
そうして私に、幸せになってもいいと言ってくれるひとたちが。
だったら私は、痛みと苦しみにだけ浸かっているわけには、いかないから。





いいえ、私、かあさんを愛してる。今でも。これからも多分ずっと。
けれど、その愛のために、何を裏切り捨ててもいいというわけじゃない。
だってかあさんは、私が生きることを、望んでくれたから。
そう、信じているから。信じると決めたから。

深緋。
私たちは母親を死なせた。殺してしまった。
だけど、それでも、望んでくれたのだと信じなければ生きてはいけない。

もうずっと遠い昨日、本当を知ることはできない日々。
その中にあったはずのものを、今の自分から拾い上げて大切にするしかない。
私はきっと、大切なもののためならかあさんと同じことをする。
何かを……あのひとを守りたいと願ったら、そうするしかないんだと、思う。

だから、深緋。私はあなたを許す。

あなたが、私を許してくれることを祈ってる。

互いの似姿。
鏡のこちらと向こう側。

私たちは許しあうことができる。
私たちは、もう、ひとりじゃない。