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メグの問い掛けに、異形の怪物は何も応えません。
頭脳たる部位を失ったショゴスに、もはや言葉を理解する知性さえ残されてはいないのでしょう。
怪物に残された感情は一つ。
ただ本能に従い、目の前に存在する魔力を捕食し吸収すること。
たとえそれが、怪物を簡単に滅ぼしてもなお、有り余る程の力を持っていたとしても。

怪物の放つ黒い棘はメグに届くことなく、光に溶けて蒸発してゆきます。
本能のままに、自身を消滅させる程の魔力へと向かっていく様は、まるで誘蛾燈に群がる蟲のようで。
時折奔る電撃が怪物の身体の一部を消し飛ばし、欠損部位を再生していく度に、
僅かに人型を保っていた身体が、その形態を失っていきます。
やがて、怪物の姿はおぞましい化け物へと成り果ててゆきます。




『……………メグ。』




聞き慣れた少女の声色で、メグを呼ぶ小さな囁くような声が聞こえます。
その声が聞こえる先は、もはやどこに存在するのかも判らなくなった怪物の唇からではなく、自身の胸の中。
正確には、胸元へと仕舞った青い石から聞こえるようです。

普段であれば、あの石を胸元へと仕舞い込むことは、危険極まりない行為だったと思われます。
青い石は、周囲の魔力を凄まじい勢いで吸収しているようです。
今のメグにとっては然したる問題ではないでしょうが、通常の人間であれば、
一瞬で干乾びて、灰のように崩れて消えてしまっていたことでしょう。

やがて、大量の魔力を吸った青い石の作用によって、少女の欠片に遺された残留思念が具現化していきます。


『……メグ。』


胸の中の少女の囁きは、さっきよりもはっきりと聞こえてきます。

目の前で頬を染めるメグの願いとは裏腹に、しっかりとお姉ちゃんをキャッチし
そして離さないこの空気の読めないさ加減は間違いなくエルである。

皆には数日間でも本人にとっては数年間…すっかりアスタルテのことを「娘」と
紹介したことを忘れてしまっていた。

少し言いよどみながら、アスタルテの方を見る。前の私か、アスタルテか…
自身の中にあり、アスタルテに託していった「精霊」の話はしていただろうか。

それとも私から移ったものだけでも自力で気づけただろうか。苦笑いしつつ
少し察してほしそうな視線で彼女たちを見た。

逆に「おいおい」と言いたくなるのはさておき…お姉さんにはなれたかもしれない。

珍しく長々と喋った後、そっとアマリアの方を見遣った。

尋ねる相手を探すように辺りに視線をやるが、生憎アポルはすぐ傍には居ない。
おそらく、居たとしても「分からん」という無愛想な答えを返したことだと思われるが。

ローズヒップティーをちまちま飲みながら。
時折その酸っぱさを和らげる為か、皿に盛ったクッキーや、小切れのパウンドケーキに手を伸ばしている。

自分も理由の一つだという言葉を聞くと、照れ臭そうに はにかんでみせた。

くすくすと笑みを零し、

メグの悩みを見透かしたかのように、カンナは優しく目を細めた。