シュガーはメルンテーゼでの一揆の最後の日々を忙しく過ごしていた。敵勢エンブリオの掃討や闘技大会への参加に参加していたし、メルンテーゼの去る時の準備も進めていたのだ。残存敵対エンブリオの掃討しながら、ドラゴンマウンテンを回遊し、シュガー達は雲の沸き立つ山稜を踏破する。シュガーに先行して山道を歩くアニマの周囲には鬼火がふよふよと漂い、時々シュガーを振り返っては言葉を交わす。

ザクザクと靴が残雪を踏みしめる音が山道に侘びしく響きわたり、シュガーとアニマの声もしんみりと岩にしみわたるよう。

シュガーに曰く、メルンテーゼと地球は現世と極楽浄土ぐらい離れている。そして、シュガーがメルンテーゼを去るとは、異世界へと飛翔することを意味する。尋常な手段では辿り着けないところなのだ。

シュガーは語る。シュガーは星々の海を飛翔し、遥か数億万億土の彼方の地球へと帰還するのだ。そして、しばらくの休養の後に、平家の怨霊に銀河旅行に導くために再び宇宙へと飛翔する。シュガーはそのための魔術的な準備を着々と進めているのだという。最近手に入れた新しいマフラーもその一環である。アニマはシュガーの話す星雲や流星といった宇宙の説明をふんふんと興味深く聞き入っていたのだった。

アニマははたと立ち止まり、何を言うわけでもなく、稜線に沸き立つ雲と、その彼方の蒼天を見上げ、しばし声もなくじっと見つめていた。

シュガー達は下山してキャンプサイトにて幕営する。サイトからは夕日に染まったドラゴンマウンテンが眺めやられ、シュガーとアニマは怨霊としばし山々を眺めていた。シュガーにしろ怨霊にしろアニマにしろ、その光景の前には言葉もなく、ただじっと日が暮れるまで見ていた。

夜は夜でそれなりに忙しかった。アニマは平家の怨霊たちの住まう竜宮城を訪れて、間借りしていた部屋の片付けに追われた。一段落ついたところでアニマはふぅとため息をついてしまう。竜宮城の平家の怨霊は故国に帰るとのことで、なんだか少し浮ついた様子で、アニマはちょっとうらやましく思っていた。対してワタシは一人ぼっちに逆戻りだ。

アニマは思った。主上が言うように、魔神様が変えようとするメルンテーゼの世界を眺めているのはそれはそれで楽しそうだけど、変えるのは魔神様でワタシではない。魔神様は神様だから好き勝手に世界を変えていいと思うけど、変えられるエンブリオ達は神様の思うがままに変えられるだけ。それはそれでいいと思うけど、それはワタシにとって楽しいことなのだろうか？

ワタシは本当はどうしたいのだろう？　

その問いは、これまで自由気ままに風のごとく振る舞っていたアニマにとって、ほとんど初めての苦悩の始まりであった。

シュガーは怨霊と会話をしているようです

シュガーの周囲に目に見える形で鬼火が飛び回る…

シュガーはパロロコンを介して『宗盛の霊』の具現化に成功した！