度重なる敗北からか、卯の花腐しは再び弱ってきているように見えた。


もう何日も前の事だけれど、
彼は自分だけの力で私の隣に立つと言って、試合で私に勝って、優雅に笑って……
自信に満ちていた彼を私は好きになったのに、今はどうだろう。
ここのところは、私が彼をずっと引っ張っている。いや、引き摺っている。



卯の花腐しは、逃げ出したいのかもしれなかった。
それを言えば、ユキナさんだってメルンテーゼの命運にまで関わり合いになる必要はない。
ヴァルさんも仕事には応えながら、死の危険を察知してか奥へ進むことには難色を示している。
誰も彼もが、あえて前へ進む義理など何処にも無かった。
私もただ、メルンテーゼを守りたいという理想のゴーストを見ているだけなのかもしれない。




卯の花腐しを救うなら、
いますぐに王城の進攻をやめて、彼の治療に専念し、共にイクスクオラへ渡るのが近道なのだろう。


抱き締め合ったあの夜から、私は知っていた。
「イクスクオラでアーシェを助ける」と豪語した、その言葉に隠された彼の炎。
彼は私を助けたいんじゃない。私を手放したくなかったのだ。
でも私は、その心に向かい合おうとはしなかった。



私には、足を止める事だけは出来なかったから。それを何よりも恐れている。



決意したのだ。
使命を果たす炎が美しいと語った、彼の言葉を……
たとえそれが、迷いに涙を流す私を慰めるための、やさしい嘘の言葉だったのだとしても……
どこまでも愚かに、私は信じていた。それが私の弱さでもあると、感付きながら。

ユキナには素直に頭を下げる。

離れたところで両頬をぱんぱんと叩いている。

陽炎のように揺らぎ徐々にその姿を薄くさせながら消えていく。

くっくっくと笑い声だけ残し、残っていた気配も完全に消え去った。