「あっ、でも〜　まだごはんの時間には早いから〜
お茶かしらね〜　ちょうどいいから、調理場についたら少し休憩しましょうか〜
簡単なお菓子なら作れると思うし、お茶の時間って言ったら、やっぱりゆっくりしたいものね〜」

てちてち、てちてち。
彼と手をつないだまま、思いつくままの言葉。
半分は、彼を心配させないために。
もう半分は、気持ちを盛り上げるために。

そういった他愛ない話も、彼が嫌な顔ひとつせず付き合ってくれるものだから。
自然と演技や義務感じゃなく心も軽くなってきて、自然、歩調が軽く、速くなる。
単純だなあ、なんて自分でも思って。ふふ、と笑ってしまう。
彼に手を引かれるのではなく、こちらが彼の手を引くような形で、扉を開いた。

「……あ、あら〜？」

眼前に広がる景色は、調理場ではなかった。
やけに冷静な深緑色の髪の男の背中と、やけにテンションの高い灰髪の男性と、あと。

「……メイドさんたち〜？
ということは〜、……王様がどちらにいらっしゃるか、ご存知かも！」

勢い込んで歩み寄ろうとしたその背後で、扉がバタンと閉まる。
振り返り際、その向こうの隙間に、彼の顔が見えた。
扉の音で言い争っていた男たちがこちらに気づく。

「あ、あら、あらあら、あら〜？」

歌うように呟いて、羽根ペンを持った右手を伸べる。
羽根ペンに宿った光のひとつが飛び出して、くるくると回り始めた。

ひとつ、ふたつ、みっつ。
回るたび、辺りの温度が下がっていく。
吐く息が白くなる。ちらちらと、白いものが落ちてくる。
星まで凍らせるような冷たい風が、サッと下から上へと吹き上げた。
目を開けると、いつから立っていたのだろう。
そこには、白い肌、赤い反物を携えた女がいた。