永久の夢にたゆたうような心地でいる。朱くあかい夢だ。忘れることのないようにと。心に楔を穿つように。
　現に立ち返れど大して差はない。世界はあかいまま、囁きは絶えぬまま。
　来るべき日を待ち続ける。

　余白の日々に紅を差し入れたのがあの龍だった。延べられた爪はこの身を薄守がごと引き裂き斬り絞り、血を、内腑をぶち撒けた。或いは情を、或いは渇望をも。
　疼いていた傷痕をも。
　理由はなんだったろうか。導かれた。光を忘れた。目が眩んだ。さよならをした。共に在り続けた。手を離せずにいた。
　欲を抱き続けていた。
　焦がれ続けていた。

　失えずにいた。



　溺死している。もしくはしてしまった。あの日に。自らの築いた屍の山の上で。
　おやすみなさい。誰に囁いただろうか。誰が。誰を求めて。あの子供が。
　刃は血に汚れていた。あの子の掌に握られた、大切な、譲り受けた、語っていた、慕っていた、彼の愛する故郷の。辿り着け得なかった。握り潰した。
　過ぎ去った時は戻らない。
　見上げた空は同じ色のままなのに。



　だからこそ。

呻き声と、拒絶せんとする声色。歩みを留めたのははたして……。
花冠が紡ぐ『殺す』という刃に一瞬、目を丸く。

ようやっとそう口にした。単純で、ゆるやかな問い。
心配はせど、好奇は含まない問いかけ。

御手を、強く握りたがる。御人が逃げないように、自分が逃げ出さないように。

滔々と言葉を重ねる。自分に言い聞かせるよう。愛を並べるのも、御人の為に。

ポジティブ、あるいは能天気か。楽天的な言葉が突く。

だから、だから花を送りたい。
花を語らう草花を、私と言う花を。

何を想像しているのだろう

少年は被っている兜を持ち上げてみせた

その背中に向けて、小さく手を振った。

笑顔で、そう語る。
それは、あるいは500年という年月の中で、彼女が見つけた答えなのかもしれない。

諦めていないと、そう言えば。

花冠が何かを答える前に、話を続ける。

そこから先は何も言えない、と言った数秒後にこの発言である。
根っからのおせっかい焼きなのであった。

生きるのも相当大変だが、死ぬのも楽じゃないね。そうトートは零す。

そのとき、花冠が零した言葉が耳に入る。

花冠が何に対して謝ったのかは皆目検討がつかなかった。
その、『すまん』の一言にはあまりにも多くのすまないが込められている気がした。俺だけに対してのすまないではなく、他のいろいろにも向けられた謝罪。そんな気がした。

自分と違い自発的にこの世界に訪れた訳ではなさそうな相手を見やる。
それは可能なことなのかどうかは流石に分からないが。

問いの声にピクリと耳が揺れた。
言葉の内容を吟味するように沈黙すること数秒程。

ゆっくりと言葉を選ぶように青年は続けた。

ややこしい話になってるな、という苦笑しつつ言葉は続く。