「俺は求められた仕事を果たしたに過ぎない」そう切り出したペルグランはテーブルの上を虚ろに見つめていた。「いずれ世界中の人間が《天狼》の名を知ることになるだろうぜ」私たちが向かい合ったテーブルは、乱雑に広がった紙の山で埋め尽くされていた。それは《天狼》に対する反駁の数々だった。実際のところ、《天狼》のために夢や希望やあるいは命を奪われたものは少なくなかった。魔力によって研ぎ澄まされた板金を組み上げたのは市井の職人の手業だった。「俺は」ペルグランの声は震えていた。「俺はあれを完璧に造ってやった」その主砲の射程は、無敵と謳われた《帝国》のありとある兵器を凌いだ。「ざまあ見ろ」私はペルグランの唇を引き裂くような笑みが苦手だった。ペルグランは寄せられた批判には何一つ返答しなかった。完成した《天狼》は瞬く間に二つの街を焼いた。それは彼の、マリユス・ペルグランの物言わぬ応えだった。

　ペルグランと知り合って間もない頃に掛けられた言葉を覚えている。「お前さんの『数字』は随分と叙情的だ」私の数字は絶えず揺れた。《帝国》軍が勝利のたび持ち帰る血腥い品々を前にして、それらを分類するには柔軟な揺らぎが要った。ペルグランは《史料分類学》の思想をすぐに理解したが、私ほどに「分類すること」への魅力は感じないらしかった。彼の数字は私よりも冷徹で、厳格で、それでいて美しかった。ペルグランは自然の揺らめきを認めながらも、その振幅をも数値に書き示すことが出来た。「ありとある事象は数字に表せる」私たちの数字はそれぞれその性格を異にしていたが、私たちの意見はそのようにして一致した。
　ペルグランが設計に携わった《天狼》は、至る面において彼が目指す通りに冷徹で、厳格な数値を示した――ただ一点を除いては。《天狼》から降り注ぐ焔は街と人々とを跡形もなく焼き尽くし、犠牲者の数を一纏めの概算に貶めたのだ。

「《天狼》は」
「完璧だよ」
「完璧に造ってやった」
「この俺が、完璧に」
「これから大勢の人間が死ぬ」
「誰も彼もが俺に殺される」
「世界中の国々が、俺の」
「俺たちの火に灼かれるんだ」
「《帝国》の工学は死んだ」
「死んだんだよ」
「みんな」
「みんな飛ぶことを夢に見てた」
「大人になっても空に憧れるなんてのはさ」
「気のいい奴等しか居ねーさ」
「…………」
「こんな風に……」
「飛びたくは」

「墜としに来いってんだ」
「墜としてくれ」
「頼むから」

「誰か」

「俺の……」

　彼は常に自らのうちに浮かぶ星を追っていた。その手に掴まんとしながら、到底届きようのない星を。自ずから墜として踏みつけなければ手に入ることのない――

「俺のシリウス、」

　ペルグランの声は震えていた。
　私は彼の様子をそれ以上思い出すことが出来ない。