ラズロを名乗る死霊術師を倒すと、
山というより岩が積み重なったような地形へと進むことができた。

山道の険しさに思わず空を仰ぐと、
時折、飛竜のような影が飛来している。

城内から明らかに外れている以上、
この奥に新王がいるとは考えにくい。

ただ、山岳で採れる鉱石や植物には優秀な素材も多く、
山岳進攻はそのまま装備強化に直結すること。
城内進攻だけが続くと、
契約エンブリオの幅に限りが出てくることから、
ビブリオバベル達は三階廊下と並行して進攻をしていた。


「ドラゴンマウンテン……。」

ローラスの横に並び、
稜線を踏みしめ歩きながら、ぽつり呟く。

竜の名を冠する山。
恐らく奥地には、竜が棲むのだろう。


「竜、か……」


竜型のモンスターやエンブリオと対峙する度に、
ビブリオバベルは否応なく、自身と母のことを思い出させられていた。


稀に、竜と人とが交わることがある。
異種族交配の結果、竜人が生まれる。

その竜人が、また更に人と交わることで生まれたのが、
ビブリオバベルの母親、リューゼリゼだ。

ビブリオバベルよりも竜の血が濃い彼女は、
ビブリオバベルよりもずっと竜に近い存在だった。
自身の母親ながら、何を考えているのか、
その行動原理が読めない異質な存在だった。

彼女はビブリオバベルが産まれる前、
様々な分割世界を渡りながら、
多くの竜を狩り、その生態系を研究していたという。

「竜の血を引く者が、竜を狩る……。
　どうしてそんなことをしていたのか、
　何度ママに尋ねても、教えてくれませんでした。
　教樹は、ママと昔からの知り合いなんですよね？
　何か、そのことについて知っていることってありませんか？」

「………。」

「………。ママは……ただ、パパとは違って、
　私が生まれてからはずっとアカデミエに居てくれて。
　……あまり母親らしいことはしてくれませんでしたけど、
　それでもずっと、外の世界に行かずにいてくれたんですよね。
　今にして思えば、それって私のことを想って
　してくれていたこと……だったりするんでしょうか。
　なんてね。まさかね……」

「………………。」

「………教樹、どうしたんですか？
　なんか妙に思いつめたような顔をして……」

「うん…………。
　リューゼリゼはアカデミエから１９年出ていない。
　だからね……僕にも予想はできなかったんだ。
　まさか、こんなことになるとは……」

「はい？……何がですか？」


ローラスは、黙って一枚の手紙を取り出し示した。


＊＊＊＊＊＊＊＊＊

（機械で印字したように無駄なく均一な冷たい文字で記されている）

ローラスへ

・ドラゴンマウンテン。学術的興味が唆られる地形だ。
　ただの竜じゃない、エンブリオとしての竜にも興味がある。
　私もこちらの実験が一区切りついたので、メルンテーゼに向かう。
　勝手に行って勝手に合流するから気にする必要はない。
　では。

＊＊＊＊＊＊＊＊＊

「………………え…？
　これって、もしかして………」

「……うん。…………アレ。」

ローラスが、進行方向に向かって枝を指した。

稜線の先に見えていた、一際大きな岩。
竜にも見紛うその大岩の天辺に、誰かが座っているのが見えた。

「遅いぞ、ローラスとビブリオバベル。待ちくたびれたよ」


リューゼリゼ＝ベリアルオリバー。

ビブリオバベルの母親がメルンテーゼへとやってきた。

　　　　　　　ナイフの手入れをしている。

呆気に取られていたのもつかの間。
すぐさま気を取り直し、鱗のような岩を跳び上って弓を番えた。