「アムフェイをPKに仕立て上げるのは日を改める」という連絡をニスイから受けた数時間後。
社長は近くの街に足を運んでいた。

「カチ、カチ、カチ」と、３回つめ先を噛む音。
それは社長の口から発せられた音。
血走った目で周囲を注意深く伺っており、キョロキョロと動く視線は街行く人々の後を追っている。

-----

日はとっくに傾いており、街の中が一番騒がしくなる時間帯。
街の雰囲気は祭りの直前のような高揚感につつまれていた。
先遣隊が「新王パラダイスと戦った」というニュースが上がって、「新王が倒されるのはいつかいつか」と、空気がそう語り合っている。

新王が倒されればこの一揆も終わるだろう。
そしたら、世界は間違いなく大きく動くことになる。
変換期を直前に控えた高揚感が、街を包んでいたのだ。

それは、終戦が近いことに対する喜びでもある。
一方、社長はそれと真逆。
まるで戦中のどまんなかにいるとでも言うような様子で、周囲を伺っている。

社長はキョロキョロと動かしていた視線を１人の男に視線を止めた。
そいつは目を深くかぶせるつばの長い帽子に身を包んでいる。
街の人々の中には溶けこんではいたが、よくよく観察してみると社長と同じように周囲の様子を伺っていることが見て取れた。

「やあ」と手を上げて、世間話をするように声を掛ける。

一方、その男は警戒を強めた目線で社長を見抜く。

男は何も答えない。
否定も肯定もしなかった、それは十分な答えである。

社長は、PSが詰められた袋を男に投げて渡す。
男は無遠慮に袋の中を確認する。

-----

社長がその大きな屋敷に入って、ちょうど３０分後。
入ってきた時と何も変わらない様子で、しかし顔には確かな手応えの色を浮かべながら屋敷から戻ってきた。


そして、屋敷から十分な距離をとった後に

と締りのないもの顔に戻る。

社長のエンブリオは楽しそうに笑う。

社長は表情を変えない。
そこまで予定通りだったとでも言うように。

----

「最後には使えない男だったな」と社長は心の中で呟いた。