※こんかいは、セリィさん(1638)とスチュさん(1452)をおかりしました。セリィさんのおはなしとリンクしています。
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猫はずんずん、ずんずんあるいていきます。
むかうさきはもちろん――


「おっ？あいつは――」


ししょーのつぶやきに、めをこらしてちゅういをみちのさきへとむけます。
どうやら、だれかがこちらにむかってくるようです。


むかいからやってきたのは、みおぼえのあるすがた。
にほんあしでたってあるくきつねさん。
セリィおねえさんのエンブリオです。

きつねさんはどうやら猫たちをさがしていたようです。
きつねさんによると、おねえさんはすでにおしろのさらにおく――れいはいどうのおくまですすんでるとのこと。

ですが、そこでおもわぬじゃまがはいってとおせんぼ。おもうようにさきにすすめないようです。

だから、こんかいも猫のちからをかりにきたやってきた、というわけです。




それをきいて猫はこまってしまいました。
なにせいま、キーさんたちのちからをかりてあくまのちからをおさえこんだところなのです。
そんな猫がいってもおねえさんのちからになれるかどうか。


でも、なやんだのはほんのすこしのあいだでした。
おねえさんをまもりたい、そのおもいはいまでもかわっていません。
もしかしたら、じぶんにできることもあるかもしれない。
それに――


『きつねさん、小生からもおねがいしたいのです。
ぜひ、おねえさんのところにつれてってほしいのです！！』


そういって猫はきつねさんとあくしゅをかわしました。
























こうして猫はれいはいどうのおくまでやってきました。

てにはキーさんにもらったほうじゅをもって。
むねにひめたおもいをつたえるために。


まちあわせばしょには、なんとスチュアートおにいさんもいました。
こんかいも猫とおなじようにおねえさんにきょうりょくしてくれるためにきてくれたにちがいありません。
スチュおにいさんがいっしょならひゃくにんりき。

そして――セリィおねえさん。
おねえさんには、いろいろつたえたいことがたくさんあります。
ここにくるまえも、であったらいったいなにをはなそうか、そんなことをかんがえてこころをはずませていました。


でも、まずはふたりにあいさつをしないと。
そうおもって、猫はにっこりわらってちかづいていきました。


ところが――


「ロク君、どうしてここに？！」


セリィおねえさんは、猫のすがたをみておどろいているようでした。
――？？――どうして――？


「ろ、ロク君…　どうして？！」


「きつねが呼んだの☆　ねこくん、頼りになるんだもん♪」


ふしぎにおもって猫がたずねるまえに、きつねさんがせつめいします。


「ちょ…　ちょっと！　勝手なことしないでよ！！」


けれど、それをきいたおねえさんはとてもおこっていました。


「三階廊下のときも勝手にロク君を呼んで…ッ！　ここは危険な場所だって判ってるの？！
ロク君はまだ子供なのよ？　ロク君の身に何かあったらどうするつもり？！！」


きつねさんにつめよって、きびしいかおをしています。


「ふ…　ふにゃぁ…　なんでそんなに怒るの…？」


おこられてなみだめのきつねさん。
でも、猫にもなんでおこっているのかわかりません。


なんで？
なんでおねえさんはおこっているのだろう？


おねえさんはこんらんしている猫にむきなおると、こうつげました。


「ロク君、ここは危ないところなの！　いままでの場所とは違うのよ？
先生に呼ばれたからって、気軽に付いて来てはダメよ！」


「いい？ ここから先は、城内でも危険な場所なの。遊びの一揆じゃないの！！
だから、一緒に来ては駄目。この先の一揆にはもう、参加しないで。」


やつぎばやに猫をさとそうとして、いいすぎたとおもったのでしょうか、おねえさんのかおがすこしくもりました。
いくらかやさしいかおになって、こうつけくわえました。



「ねぇ、判って頂戴。ロク君のことを嫌っている訳じゃないの。
ロク君に、危ない目に遭って欲しくないのよ。無茶なことは、しないで。」


「悪い王様は、私達が懲らしめるわ。だから…ロク君は、お城の外で待っていて。」



おねえさんをにらむようにみてから、むずかしいかおをしてスチュおにいさんがつづきます。



「いや、こんな王城の奥まで来てしまったなら……
ここから安全な場所まではそれなりに距離がある。
それに、さっき賞金首がこの辺りをうろついているのも見かけた。
今から無理に一人で帰らせるほうが危ないかもしれない……。」



猫のほうにむきなおり、



「リク。この奥を守っている奴は、僕とノースロップが相手をする。
そいつが出てきたら、君は近くの安全そうな場所に隠れて欲しい。
それまでは絶対に僕たちから離れないで。」



「もし危なくなったら……すぐに逃げるんだ。
話を聞いた限りだと、たぶん、戦うつもりの――
先に進むつもりの無い相手に手を出すようなことはしないはずだ。
僕たちのことは、気にしなくていい。……解った？」
























『……………わから、ないのです。』







いっしょにわるいおうさまををおしおきしにいこう、とほほえんだおねえさん。

ふこうにまきこまないためにぶきをむけたときですら、猫にやさしくしてくれたおねえさん。

おさえきれない猫のちからをみたとき、こわらがれたとおもった。きらわれたとおもった。
でも「むちゃをしないで」とさいごは猫をだきしめてくれたおねえさん。

きおくのない猫に「こきょうにこない？」とこえをかけてくれたおねえさん。





でも――いまのおねえさんのことばは、猫をとおざけるもの。




おにいさんはもともと猫がたたかいにさんかするのにあまりいいかおはしていなかったけれど――

でも、いっきにさんかするちからがあることをしぶしぶだけれどみとめてくれたおにいさん。
猫をしんぱいしてむちゃはしないようにしっかりといいきかせて。

それなのに――




『わからないのです！！』




なんで？
どうしていまになって？
なにかじぶんはわるいことをしてしまったのだろうか？


『小生だっておねえさんにきずついてほしくないのに！
おにいさんのちからになりたいのに！
なのに、小生だけあんぜんなところでまっていろっていうのです！？
ここから、にげろっていうのです！？
小生だって、小生だって――』


やっと、もんだいもかたづいたのに。
やっと、おねえさんに――


ふと、にぎっていたてがほんのりあたたかくなったきがしました。
そのてにあるのは、こえをとどけるほうじゅ。

猫はそこでスチュおにいさんのほうへめをむけました。



“君がどんな理由でこの革命に手を貸していようと、
それは僕には関係無いし、それを否定する権利も無いから。……ただ、

その結果命を落とすことになるか、それよりも酷い目に遭ったとしてもいい、
心からそう信じられる理由が見あたらないなら、一度考え直したほうが君のためだと、僕は思う。”



『スチュおにいさん、まえにいっていたのです。
このいっきにさんかしたことでたとえじぶんがひどいめにあったとしてもかまわない、そうこころからおもえるりゆうがなければ、いっきをつづけるべきじゃないって。』


『小生は、そのりゆうをみつけたのです。』


そういってセリィおにいさんとスチュおにいさんにいっぽちかづきます。


『だから、おにいさんにはみとどけてほしいのです。
そして――おねえさん。』


そのままめをつむると、ほうじゅをふたりのまえにかかげました。


『まえに…こきょうにさそってくれて小生、とってもうれしかったのです。
そのこたえをいま、かえすのです。
これが、小生のおもい――こたえなのです――！』










ほうじゅから、あわいひかりがはなたれてあたりをてらしだすと、たかめのあどけないこどものようなこえがひびき――






















小生――小生は――、セリィおねえさんのことがすき――だいすきなのです。
これからもずっと――ずっといっしょに、いてくださいなのです――！























やがてひかりがおさまると、こえもすっかりきこえなくなりました。
猫のてにのこされたのは、ちからをうしなってひびのはいったほうじゅ。




ふと、われにかえってじぶんのしたことをおもいだし――猫のかおは、けがわがなかったらまっかになっていたにちがいありません。

いろいろじぶんのこえでつたえたいことはあったけれど、いきおいでおねえさんにこくはくをしてしまった。
しかも、スチュおにいさんをまきこんでこくはくをしてしまった。

でも、いちばんつたえたいおもい――おねえさんがすきというきもちはつたえることができました。



ちらりと、かおいろをうかがうようにスチュおにいさんとおねえさんをみてみます。


ふたりとも、あっけにとられたようなかおをしています。

――やがて、スチュおにいさんはめをふせました。
そのすがたはなんだかかなしそうで、まるで「どうして」と猫にといかけてくるようです。
ちからをみとめてくれたからといっても、やはり猫がいっきにさんかするのにははんたいなのでしょう。
スチュおにいさんは猫のしんぱいをしてくれているのです。

けれど、これは猫にとってもゆずれないところ。猫のこころはちくりといたみました。



おねえさんは――


「あ……。」


猫がせいいっぱい“つげた”そのいみをすこしおくれてのみこめたらしく、おねえさんのみみはピンとたって、けがさかだっています。


「い、いや…　そんな…」


「あ、あの…」


「ロク君……」


しだいにおねえさんのかおがうれしそうになったきがしたのは猫のきのせいでしょうか？


「ろっ、ロク君！！　わ、私も、貴方と……」











――けれども。


「これが、ロク君の声…なのね？　聴こえたわ。」


こたえるおねえさんのこえは、しずんでいるとさえいえそうなほどおちついていて。


「ロク君の声を聴けて…　ずっと一緒に居たいって言ってくれて…　私、とても嬉しいわ。」


ハッとおねえさんをみると、さびしそうな――かなしそうなえがおをうかべていました。






「でも今は、それには応えられない…」


そのことばをきいたとき――猫はガツン、とあたまをなぐられたかのようでした。





「ロク君は、傷ついても、ひどい目に遭っても、それでも一緒に居たいって、力になりたいって言ってくれた。けれど…」


「私は、それに甘える訳にはいかないのよ…」







おねえさんはつづけます。


おねえさんがこどものころは、ひどくびょうきがちだったこと。
おねえさんのおとうと――ルーカス――ルークさんにめんどうをみてもらっていたこと。
ルークさんはむりをしておねえさんをかんびょうしていたせいで―――







「好きと言ってくれて、ありがとう。私も、ロク君のことを大切に想っているわ。大好きよ…」


おねえさんはやさしくねこにほほえみます。けれども、そのひとみには…


「だけど、好きからこそ、愛しているからこそ 応えられない…」


「応えては、いけない。貴方に甘える訳にはいかないの…」


「このまま一緒にいれば、私は貴方を不幸にしてしまう。私は……ロク君、貴方を不幸にしたくない……」


くるり、と猫にせをむけるおねえさん。


「ごめんなさい。どうか、判って…」


そのかおは、いま――


猫はいぜんにみたおねえさんのかなしそうなひとみをおもいだしました。
あのときのおねえさんはなにをおもっていたのか。
いま、なんとなくわかったきがします。

おねえさんは、もしかしたらルークさんと猫をかさねているのかもしれません。
だから、猫がむちゃをするのがみていられない。


はじめにこえをかけられたのも、くろいけがわの猫にルークさんのかげをみていたのかも――






いいや、と猫はくびをふりました。
もしかしたら、はじめはそうだったかもしれない。
けれども、いまおねえさんは――猫をあいしているといってくれた。
ルークさんではない、猫のことを。




だったら、あきらめたく、ない。










それに――おんなじだ。


あいてをふこうにしたくない。
そのきもちからあいてをとおざけようとする。



いまのおねえさんは―――まえのじぶんによくにている――



猫がくじけそうなときにたちなおらせてくれたのはおねえさん。
そのおねえさんが、くるしんでいる。
だったら、こんどはじぶんがそのくるしみをとりのぞいてあげたい。
おねえさんをささえたい。
いっしょにわかちあいたい――







おねえさんのきもち。
それをしったいま、いったい猫はどうすべきなのでしょうか――？

めをごしごしとらんぼうにこすると、ぶきをかまえました。

狐が掌をかざすと…　白と黒の、切り絵のような蝶が具現する。