――いつかの会話―――

万能、と名づけてしまうことさえ、いや、名づけてしまうことこそが、限界なのじゃ。

なぜ名付けるのか。
名付けることで対象を把握したいからじゃ。

名付けなければ対象が把握できないからじゃ。
名付けるというのは、名前を与えることだけではない。

「こういうものだ」と認識することじゃ。
認め、識ることじゃ。

認識することで、認識できなかった「それ」を、自分の理解できる範囲に収めることができる。

知るということは呪いのようなものじゃ。
知ってしまえば、それ以上のことを知る機会を失ってしまう。

だが、知らずにいられるのかや？

（その全てではないにせよ）知ることができるものを、知らずにいられるのかや？

わらわでさえ、認識の呪いからは逃れることができぬ。
おぬしはどうじゃ？

お主もやはり、逃れることはできぬじゃろう。
だが、それでもいいのじゃ。

そこで知ることを止めなければ。
今の自分が、「それ」を「そこまで」しか知ることができていないのじゃと、忘れさえしなければ。
それ以上を知りたいと求めることを忘れなければ。
それ以上を知るために、自分を研鑽することを忘れなければ。

そのとき、呪いはおぬしにとっての祝福になるじゃろうな。

恥ずかしさから包帯で巻かれた人差し指をそっと隠す。

　大笑いしながら、照れを隠すように自らの髪を掻き上げながら梳く。

　スッと歩を進めて、狐は彼の腕を取ろうとするだろう。
　もし腕の確保に成功したならば、その冷えた掌を自分の頬に当てて温めようとするかも知れない。

　いらぬ話を聴かせたな、と困ったように鼻を鳴らした。

のろのろと顔を上げるクラガの腕から赤黒い焔が立ち上る。それは獣へと姿を変え、具現化した。