Basique という文字がはじめに浮かんで、 s の音がどうしても濁る。バズィック。《基礎》を意味する旧びた綴りで、私たちの言葉は母音に挟まれた s の音を習慣が濁らせる。バズィック。それはあの男の名前ではない。
革命に携わる者たちの口に上るいくつかの名前のうちのひとつ、人のそばを好みながら群れを持たず、戯れのように人に導かれ、あるいは導いては、けれど長い時を交わさずに消えていく。獣のように自由でサーカスのように華やかな侵攻、音としてささやかれるばかりのその名前の綴りを私は知らない。
賞金稼ぎという呼び名はそぐわないように思える。獲た賞金を大きな資金にしたことは事実だろう。だがあとから聞いた地下牢でのその動きは、どちらかといえば適切な形で金を得る方法が、その時は賞金だったというように聞こえてならなかった。目の前の利を奪う。その嗅覚が、ひどく敏い。
人というよりもどこか呪わしいほどに獣を思わせた。なにかを飢えるようにして求めるあてのない獣。笑みには心底が知れなかった。なにかそれらしい益体を保っているのかさえ不明だった。ゆえにその戦いは、革命に連なる者たちを相手にしたどの時の闘争よりも、ひどく狩りに似ていた。……