[紙の上に文字が並んでいる]



反乱から二度目の冬が来るが、今年も南には帰れそうにない。

一揆は日に日に苛烈になり、反乱者達の足は王城の奥に届きつつあるようにみえる、

だが、まだなにも打開されていない。



王がなぜ、あの赤い花を全て奪い去らんとするのかも未だ解らず、

戦に出ていない者の手に赤い花が届く状況にも未だ戻らず。



王城を攻める人間たちの攻勢の激しさをみれば、王の打倒が近いようにも感じるが、

王城から湧き出る敵の多さをみれば、まだ先が長くとも不思議でないとも感じる。



我々はまた来春も無為な渡りを行う事になるやも知れない。



故郷の海風の女神たちの歌声はまだ聞こえるだろうか。

消えては、いないだろうか。



戦いに加勢して、いろいろな人間や異種族たちを見た。

本人の意思に沿わず巻き込まれた者や、愉快さ半分で王城攻めを行う者も少なくはないが、

やむにやまれぬ事情で戦わざる得ない者も少なくはない。



生きるために精霊の力の借りている種族の状況はことのほか逼迫して見える。



それは、集落の生計を立てる手段が精霊の力に依存したものであったり、

もっと直接的に、生物としての生命維持に精霊の力が欠かせなかったりと様々だが、

そのような事情を負った群れや種にとって残された時間はそう長くはないだろう。



二度目の冬は、誰にとっても厳しいものになりそうだ。



彼らと比するなら、我々にはまだ時間があるといえるのかもしれない。

我々は、自分たちの翼の筋で空を飛び、自分たちの爪と脚で食糧を得て、

衣食住の維持、命の維持、それら生きる手段の為には精霊を使っていないのだから。



だが、それでもこの冬は厳しく、どうしようもなく、気が急く。

来春の渡の時期が来ても、未だ、赤い花が戻らなければ、

海で歌う女神たちの声もいよいよ耐えてしまうかもしれない。

そうなれば、我々はどうなるだろう。



生きる事は簡単だ。

南の海のただなかの故郷は、暖かく、外敵もなく、食に困ることもない。

赤い花を諦め、渡る事を止めれば、生きることに何の難もない。



ただ、

女神の歌を聞けなくなることを、我々皆が悲しむだけだ。



ただそれだけだ。

だが、それが我々には何よりも辛い。



今年も自分は反乱での戦いを一冬中でもつづけるつもりだ。

なので、島の皆もまだ少し待っていてくれ。

戦いが終わり、南に帰った時、女神たちのすべてが消えていないことを願う。

すっと上空にとび――

上空から降りて来る

「ここになにかがあるよ」と示すように
ウィスプは宙を舞っている

手元に残った黒十字を残念そうに見つめながら