(※あいも変わらず本編とはあまり関係ありません。
　 前回の続きとなっております。
　 前回の方もどうぞ。
　 良ければ過去の日記とあわせてお読みください。)

「お嬢ちゃん、一体全体本当に、
　あんた何者なんだ。」
――あれから、雇い主に少女の事を話したら、
助けてもらったのには違いないのだし、
幸運を運んで来てくれたに違いない。
験を担ぎの為にもなるし、
とはいえ、
賊の仲間の可能性もあるし、
一度どんな人物か会ってみたいとの事で、
依頼主と彼女を会わせたら、
何故か意気投合し握手をしている所を目撃した事から始まり、
国境を通過する為に関所にいけば、
彼女の出した通行許可証を見て、
あっという間に通行の許可が出る。
更に、
国境を越えた途端、
本人がいっていた通りに別れようとする。
行くあてについて聞いてみても、
当然との如く無いと断言する辺りどうかしていると思う。
確か、
出会った時は女の一人旅が危険だのいっていた気がするんだが、
こちらは気にせず、
次の街まで一緒したらどうかとの提案に、
速攻で断りを入れる辺り、
本当にどうにかしているとしか思えない。
国境を越えるまでというのも、
関所で、
俺達みたいな商隊といたほうが、
色々面倒事が少なくて、
そのまま一緒した方が都合がいいにも関わらず、
それをしないのは、
此方側に遠慮をしてだの、
金が無いだの思ったのだが、
必需品を依頼人から買う際に、
それなりの額のお金を持っていることは分かっている。
いってみれば、
なんで俺達と一緒しようと思ったというか、
そんな必要なかっただろ、
といわざるをえないくらい不可解過ぎるのだ。
寧ろ、
あそこで提案するなら、
金を出すから次の街まで送ってくれだろうと。
さらに、
折角という事で首都まで一緒する事になったのはいい。
こうして暫く一緒して気付いたのだが、
この女、
いつも宿に俺達が泊まったり、
野営するときに限って、
一人でどこかにいく。
どこにいったのか分からないし、
朝になったらひょっこり戻ってくる辺りどうかしてる。
普通は日中離れる事はあっても、
一番危険な夜間に女一人でどこかに行くというのはどうなのかと。
あまりにも不信過ぎて、
俺がつけてみたのだが、
途中で見事巻かれてしまった。
多少体力はあるようだが、
力とかをみせてもらったところ、
普通の女性くらいの力しかもっていないし、
武道の心得は多少あるようだが、
そこまで熟達した力をもっているような感じでもない。
本当に一体何者なのか。
着ている服からして見かけない服だし、
その事について尋ねるたびに、
乙女の秘密といって結局煙に巻かれて終わる。
なのでもう、
率直に聞いてみることにしたのだが……
「伊賦夜魅月。
　謎多き旅の乙女よ。」
案の定というかなんというか、
まともに答える気は彼女には無いらしい。
「……」
思わず出るため息に、
彼女はクスクス笑って、
「私が何者かという問いで、
　私が表せるのはそれで十分よ。
　それ以上もそれ以下もいらないわ。
　貴方の疑問はいろいろあるし、
　聞きたいだろう事も分かるけど、
　私は答えるつもりはない。
　そして、そろそろ首都につく。
　そうなればお別れでしょう？」
「そうだな。
　依頼人の旦那との契約は、
　この国の首都までだから、
　到着してしまえば、
　俺も依頼が終わる事だし、
　金持ってるから雇わないかといおうと思ったんだが……
　流石に得体がしなれなさすぎて、
　どうしたもんだかな……
　と。
　どうせ首都にいってもその様子だと、
　暫く滞在した後にどっか旅に出るんだろう？
　なんかあんたは危なかっしいし、
　心配なのと、
　まぁ、退屈はしなさそうだからな。
　悪くはない。
　金払いさえきっちりしてくれれば、
　仕事はきっちりやり遂げる。
　が、問題なのは。
　あんたに秘密が多過ぎてな。
　正直な話、
　俺に手に負えない話を抱えてるとなると、
　流石に俺も考える必要があるから、な。
　手を引くにしろ、
　金を吊り上げるにしろ、な。」
どうせ、はぐらかされるなら、
正直に話して反応をみようと、
全部正直に話してみる。
これで何も語らないなら、
そのままさよならした方がいいし、
そうでないなら――
まぁ、男としては見捨てたり、
ほっておくのも男が廃るというもの。
出来る範囲で、
力になるべき事があるなら力になる必要がある。
「なるほど、
　道理ね。
　……そうねぇ。
　じゃあ、こういった方がはやいのかしら？
　私は魔女、よ。」
そんな俺に対してかえって来たのは、
ああ、なるほどと思える答えであり、
厄介なと思える答えでもあった。
しかし……
「あの国の魔女というと……
　倒されたんじゃなかったか……？」
「残念ね。
　私は倒した側よ。
　で、そのまま観光に他の国に抜けるところ。
　一緒したのは、
　まぁ、たいして意味は無いわ。
　そのほうが面白そうだったっていうのと……
　それと、もう一つ。
　あのタイミングで関わらないなんて暇この上なかったから。
　その後も一緒にこうして首都まで一緒しようと思ったのは　
　あの商人さんと貴方が気に入ったから、
　首都くらいまで一緒してもいいなと思っただけね。
　夜に一人でいるのは、
　まぁ、魔女の制約みたいなものよ。
　私は眠る時に誰かとともにいる事は出来ない……
　とでも思えばいいわ。
　ある程度ならどうにかなるのだけどね。
　流石にそれを許すほど、
　私は安い女じゃないわよ？」
誰がそこまで正直に答えろといったかと思うくらいに、
知らないほうがいい情報までこちらに提供してきた。
明らかにわざと巻き込む気だ。
この女。
とはいえ、その話自体には特に問題はない。
あの魔女を倒した力があるという事は、
その分制約とやらも強いのだろう。
そこにさえ気をつけていれば問題は無い。
が、ここで別の問題も見えてくる。
「――聞いちゃいけない事を聞いた気がするんだが。」
「あら、そうね。
　となると……
　少なくとも一回は雇わないといけないわね。
　まぁ、
　そのままずっと雇い続けることになるかどうかは、
　これから次第だけど。」
「……何か完全にはめられた気がするんだが……
　こちらとしては金さえ払ってもらえりゃ問題ない。
　――しかし、となると一つ疑問なんだが……
　俺の護衛とかいらないだろ。
　威圧や抑止力にはなるかもしれんが、
　あの魔女を倒したというなら、
　別段それすらも必要ないだろう？
　あの魔女を倒す、
　という事はそういう事だからな。
　もっとも、ふかしの類の可能性もあるが……
　それにしちゃあ、
　それを今まで言わずに俺が不可解と思っている事……
　あの関所を容易く通るなんて真似を出来るとは思えない。
　違うか？」
そう。
ここで浮き上がった問題があるとすれば一点。
俺を引き込む相手にとってのメリット。
正直な話、俺が足手まといになるくらいなら、
いくら大金をつまれても、
ごめんこうむりたい所である。
流石にプライドも評判もずたずたになりかねない。
「あら、簡単な話よ。
　必要あるからに決まってるじゃない。
　私の戦い方は基本的に受身なのよね。
　そんなド派手な攻撃とかは出来ないし、
　見た目がこんなだから、
　威圧や抑止力が全く無いのよ。
　だから、貴方のような人が必要なの。
　荒事で負ける気はしないけど、
　私は荒事に向いてるタイプでもないし。
　実際に戦うことになったら、
　貴方は好きなように暴れてくれていいわ。
　私を護る必要なんて考えずにね。
　どれだけの威を示せるかは全て貴方次第。
　私の手札が知りたいなら――
　受けると確約してからにしてもらおうかしら。
　といっても、
　私が教える手札は片方だけだけど。
　支払いはそうね。
　必要経費はこちらでもつわ。
　この国の滞在している間と、
　次の国の首都に到着するまで。
　さしあたっての額はこれくらいでどうかしら？」
理解は出来る。
魔女といっても特殊なタイプと見たほうがいいだろうか。
少なくとも彼女には、
数多の魔法を操るといった類は出来ないとみていいだろう。
その代わり、
片方というからには、
その二つの手札が恐ろしいものなのだろう事は分かる。
というよりも、
とんでもない切り札でもない限り、
あの魔女を倒せるはずもないからだ。
金に関しては問題ない。
十分だ。
さて、
後は俺が受けるかどうかだが――
「いいだろう。
　受けよう。
　少なくとも悪くはないし面白そうだ。
　ま、退屈な依頼だとしても、だ。
　基本的に俺が動くのに制限はかけないんだろう？」
「そうね。　
　夜は一緒しない方がいいし、
　必要があれば声をかけるし、
　昼間も事前にやりたい事があったらいってくれれば都合するわ。
　仕事さえきっちりしてもらえれれば文句はないわね。
　手を抜くタイプじゃないだろうから、
　その辺りは全く心配していないけど。」
「それはそれは腕をかわれたもので。
　――ああ、問題ないな。」
あっさりと信じている辺り危険感が足りないような錯覚がするが、
そんな女なら、
俺は翻弄されてない。
分かっていていってやがる。狐め。
「じゃ、契約成立ね。
　先にお金は渡しておくわ。
　貴方のプライドなら、
　持ち逃げを許さないだろうしね。
　ああ。必要経費に関しては私が出すとはいったけど、
　宿代と、
　一緒に食事する際は私が払うって事でいいわよね。
　一緒できない食事の時は私が先にお金渡すわ。
　他に必要なものについては用途等を先にいってくれたらいいわよ。」
「……つり銭はきっちり返せ、と。」
「そうね。
　何か個人的な話で遊びたいなら報酬からお願いするわね。
　誤魔化しても無駄だから。
　貴方の場合なんだかんだで性根が素直だから顔に出るわ。」
「分かった分かった。
　問題ねぇよ。」
「そ、それじゃあ……よろしくね。
　私の手札の一つは不老不死。
　とはいっても、
　これに関しては私以外がどうこうする事は出来ないわ。
　どんな方法を使っても私以外には適応されない法則……
　とでもいえばいいのかしらね。
　護る必要がないというのはそういう事よ。」
色々条件を出されたが、
常識的な範囲だし、
問題は無い。
だが……
まさか彼女の手札がまたとんでもないというのも分かった。
どんな方法でも彼女しか扱えないとはいえ、
そんなもの、
欲しがる奴は多い。
知られたら不味い類の代物だろうに。
そして、それを知られてももう片方の手札ならどうにかなる、
少なくともそう信じている辺り、
もう片方の手札は更にろくでもないものに違いない。
魔女、というよりは歩く災厄とでもいった方がいいんじゃないか？
とも思ったが……
少なくとも理性的な話し合いが出来るだけマシ、か。
それに、護る必要がないというのも確かな話だ。
少なくとも生死に関しては、だが。
「……つまり、無力化や捕縛から護ればいい、と。
　で、人質にとられても気にしなくていい、と。」
「そういう事になるわね。」
「……ま、毒や不意打ちに気をつける……
　というのは基本的な事だし、な。
　俺がいないときは防げないにしても、
　俺がいないならいないで自分で自己防衛するタマじゃないだろ。
　全く……」
食えない女だ。
ま、だからいいともいえるんだが。
護られるような女じゃない。
だが、護られる女でもある。
全く、
分かっていても無碍に出来ず、
分かっていてもそうしたくなる。
本当に食えない女。
だが、
そういった女は退屈ではなく刺激をもたらしてくれる。
どんな刺激をもたらしてくれるかは分からないし、
結局の所、
ただ振り回されて終わるおちすらありえる。
だが、
退屈な毎日よりはマシだ。
今回の依頼が退屈だった事も含めて、
彼女とであった事で再認識させられた。
俺は退屈ではなく、
刺激を求めたからこそ、
今ここにこうして在るのだと。
空を仰ぐ俺に、女――魅月はクスリと笑って俺の前から去る。
さて、そうと決まったら最後まで気を抜かず仕事をしよう。
俺の価値をもっと認めさせるくらいはさせないと、
負けっぱなしだから、な。

――腕利きの傭兵の彼を雇ったのは丁度よかったと思う。
性格もからかい易くて申し分なし。
状況判断能力もあるし、
彼が強いのははっきりと分かっているし、
商隊の主からも、
他の護衛からの評判も良しとくれば、
実に都合がいい。
一人旅というのもいいけれど、
旅は道連れ世は情け。
縁があれば話は別というもの。
良縁は大切にしないといけない。
幸いにも彼はこちらに興味をもった。
ならば後は引き込めるかは私次第。
そして私は賭けに成功したという事。
先ほどのやりとりで、
彼についての私の評価にも間違いはなさそうだし、
……これから楽しくなりそうね。

だが言われてみれば朔位は色々小さいのが好きかもしれないって背後気付かされた。
第三者の指摘って大事。