くすくすと微笑んで、ムイさんの気遣いに感謝したりしつつ。

ちょっとしたお茶会の場になったブルーシートのうえで、アムルは足を伸ばしてくつろいでいます。

そんな話をしながら、楽しそうに自分の分のハーブティーを淹れて、空を見上げながら口につけ。
コハクさんほどではないものの、幸せそうに息を吐くのです。

こうしているのが楽しいのか、アムルは三人でお茶をしている間、ずっとにこにこ微笑んでいました。


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つい弱音を漏らしたのは恥ずかしかったものの、不器用にフォローしてくれるムイさんに、自然と笑顔がこぼれます。


──────けれど、なんだか絞りだすように言葉を選んでいる姿を見てると、だんだんべつの気持ちが浮かんでくるわけで。

思わず視線をそらしながら、ぼそぼそと。
イヤではないけど、顔は真っ赤になってしまっているのでした。

あわてて話をそらそうとして、よけいにダメな方向に舵をとっている気もする、残念なアムルなのでした。


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アムルは、角を切り落とした瞬間から───慎重に、真剣に、じっとムイさんの変化を見ています。

そして、ムイさんが不意に倒れて、コハクさんも消えてしまった直後。

アムルの声に呼応して、その影がざわめきました。

人間よりも一回りも大きい真っ黒な蜘蛛が、アムルの影から滲み出るように這いあがると、ムイさんが地面に倒れる前に掴まえます。
そうしている間も、アムルはムイさんから視線を一度もそらさず、両の手のひらでムイさんの頭を支えました。

ざざざざざざ、と、真っ黒な蜘蛛から、無数の虫の這う音が聞こえます。
その表面には無数の、数百、数千を超える赤い点。赤い、蜘蛛の目が、じっと昏倒しているムイさんを見ています。

かすかな不安の混ざった、絞りだすようなアムルの声に従って、蜘蛛の足先がムイさんの胸に触れました。
足先からその表面が崩れていくと、小さな無数の真っ黒な蜘蛛となって、その体のうえから直接、肌の上に触れます。

たくさんの蜘蛛たちが、ムイさんの体の異常を探る中。

発熱、魔力の流れ、紫色の結晶の生成、そして魔力の停止──────

ムイさんが目を開くと、アムルはほっとしたような、慌てるような声を上げました。
同時に、ムイさんを抱えていた真っ黒な蜘蛛も、その肌に触れていた小さな無数の蜘蛛たちも、一斉に形を失います。

まるで固体が液体になるように、三次元が二次元の影に溶けて、アムルの影の中に一欠片も残さず戻っていきました。
支えるものを失ったムイさんの頭は、ちょうどアムルの膝の上にぽてっと落ちます。

一連のできごとを、意識が戻ったばかりのムイさんがどれくらい把握できたかは不明です。

無事そうなムイさんの姿を確認して、アムルは気が抜けたように長い息を吐きます。

しばらくそのままムイさんを見つめていましたが、質問を受けると「あ」と小さく声を上げて姿勢を正し。

ちょっと慌てたように、たどたどしく自分の見たもの、知ったことを説明します。
そうしてから、もう一度、息を吐き。

怒られてもしかたがないと、しゅんとした顔でそう言いました。

『ムイさまの角折り器』の上でピコピコしているチビ蜘蛛をみて、アムルは慌てて折れた角を確認しようとします。

……確認しようとして、よく考えたら膝枕してるので立ち上がれないことを思い出しました。

というわけで、ぼそぼそと恥ずかしそうにそんなことを尋ねるのでした。

なんてにへらと笑い。
六が他の湯屋へ鞍替えをするかもしれないと言えばあっけらかんとしてみせて。

ペカー

ぐっどすまいりんぐかんぱにー

もしかして＝きょうふせいじ

　　　　　彼女の歩みは止まらない―――――