赤い、赤い夢を見る。
　鮮やかに色付いた森を、私は歩く。
　――その赤は、まるで、







　ミハウと逸れた。
　多分、私が悪い。考え事しながら、歩いてたから。
　……また今日も、あの夢を見た。
　故郷の森――シウナウスの森を、歩く夢。赤い、森を。

「……ウルヘア、ちょっとあっちの方、見て来てもらって良い？」
「ピッ？」

　これは、良い機会なのかもしれない。
　ミハウを探す足を止めて、ウルヘアに振り返る。
　ウルヘアは羽ばたき、杖の先端に留まった。黄金色の瞳が、私を見つめる。

「ピィ、……ピーィ、」
「私は大丈夫よ。ヒリアイネンも、トルクレンケも居るんだから。二手に分かれた方が、早く見つかるでしょ」
「……ピィ」

　少しの逡巡の後、ウルヘアは頷きを返した。杖を蹴って、向こうの方に飛んで行く。

　ウルヘアを見送ってから、彼の行った方向とは真逆の道を歩いた。
　埃っぽい屋敷の中、私の足音だけが響く。一人だ。杖を握り締める。大丈夫、怖くはない。
　慎重に探索していたら、小部屋を見つけた。注意深く周りの気配を探っても、敵は居なさそうだ。
　長い間、使われていないのか、ドアを開けると酷く軋む音がした。
　お世辞にも綺麗とは言えない部屋の真ん中に立って、携えた杖を持ち直す。
　真っ直ぐに、結晶の一つを見つめた。

「……ヒリアイネン、訊きたいことがあるんだけど」

　薄黄色の結晶が、ちかりと光った。
　ザントマン。眠りの精霊。夜を司るもの。
　夢にすら、きっと介入できる。
　だって、

「あなた、何してるの？」

　――あの赤は、私の知ってる紅じゃない。

とはいえ言葉自体、フォローには理解を示す。彼女が言うなら悪い人ではないのだから

くすりと笑い、軽く握りこぶしを作った手で口元を隠す。ほんの軽い冗談交じり。

自分と違って年相応の笑みを浮かべる若き女の子の様子は微笑ましく見えて。まぁ、無自覚だったやもしれないけれど。それはまた、それ。

――それは、逸れる前のこと。

いつも通りの、食事のあと。
器に載せて差し出されたのは、ストロベリー、ラズベリー、ブルーベリーが、ヨーグルトムースの上に飾り付けられた、手のひらサイズのタルト。
前に街に寄った時に、街の人からレシピを教えてもらったので作ってみた、のだと。

そう言って、器を手渡した。

スズメ大のサイズの夢魔が悪夢を押し売りしている・・・。