(※今回の日記も本編とはあまり関係がありません
　 本編を書くのはまだお預け。
　 本編いらないんじゃないかな？
　 気にするな！)

「……いつも思うんだけど、
　魅月さんって負けた事あるの？
　負けてる姿が全く想像出来ないんだけど。」
アルネスさんのその言葉を聴いて、
私は過去を振り返ってみる。
大体の出来事において、
自分気ままに、
自分の望む結果を最大限引き出してきた……
と、
少なくともはたから見ればそうとしか見えないだろう。
何があっても私は一人生き延びて、
最後まで立っている。
それはまぎれもなく勝者の形ではあるだろう。
だが――
「割と負けてるわよ？
　今も昔も、
　負けの数なんて貴女より桁外れに多いと思うけど？」
それが自分にとって納得の行く結果、
望みどおりの結果になってきたかといえば否、である。
護りたいものを護れなかったことは何度も在る。
そして、勝てない相手とも戦った事があるし、
敗北は何千、何万を数えている。
単純な話、
それが敗北に見えないのは、
単純に私の態度にある。
今更態度を変える気はないので、
結果的に勝ち続けているように見えるだけである。
悲しい事、
苦しい事、
痛い事――
何度繰り返しただろう。
何十度繰り返しただろう。
否。
それは幾千幾万……
もっと、もっと――
星の数のように数え切れないほど繰り返した。
結局の所、
単純に私が私である為に、
今更他の態度をする気もなければ、
他の態度で示した所で逆に嘘過ぎるだけなのである。
「どこが！？
　というか、新手のジョークか、
　私をからかってます？
　ねぇ。」
「認識の差異という奴ね。
　ぶっちゃけた話をするけど、
　誰かと戦って、
　死んだほうは勝ちなのかしら？
　それとも負けなのかしら？」
「へ？
　そりゃ、死んだら負けなんじゃ――」
「そうね。
　一回の戦いで数十回死ぬ私は、
　それだけで数十回の敗北を重ねるに等しいわ。
　単純に私は勝利するただの一回まで、
　同じ事を重ね続けれる事が出来る。
　時には相手の自滅、
　時には普通に相手を潰して、
　そして、またある時には相手に諦めさせるように。
　ほらよくいうじゃない。
　たとえ最後の最後で勝てばいいって。
　それと、
　私は基本的に他の人を護る事は向いてないから、
　そういった関係だとわりと無理ね。
　基本的に相手を挑発して、
　いかに自分に矛先を向けさせるかが鍵になるし。
　ある意味一挙手一投足、その全てが鍵よね。
　自分の望むように仕向ける技術はその辺りから来ているわ。
　完全にコントロールする事はかなわなくても、
　ある程度コントロールできないと大惨事だし。
　後は余裕ね。
　私自身は弱いのに、
　強い人たちばかりなんだもの。
　利用できるものはなんでもさせてもらうわよ？」
「あ、そっか……
　それで……
　あれ、でも結局最後に勝ってるじゃないですか、
　ヤダーー！」
そう、最終的には勝っている。
簡単に言えば、
私はその場で無限コンティニューが出来るともいえる。
私が心折れて諦めない限り、
死によるゲームオーバーは無い。
けれども、
それで必ずしもベストエンドにたどり着けるとは限らない。
それだけの話。
それを永遠に続く人生という途方も無い尺度で諦めないでい続ける。
そう。
他者のいう“敗北”の形は、
魅月が諦める事に値する。
精神の死を魅月が否定する限り、
負けないともいうが、
“敗北”の定義次第では、
魅月ほど敗北してきた人間はいないともいえる。
そう。全ては定義次第。
私の場合、
してやられても、
基本的に他人の前で痛恨の表情を滅多にみせないので、
はたから見れば……
敗北してる様子がないように見えてるだけである。
……とても肝心な事だと私は思っている。
「まぁ、そう思うならそうなのでしょうね。
　でも、
　確かに私は敗北を重ねているわ。
　そうね、例えば……」

――暗い、暗い夜の廃墟に私は一人住んでいる。
少し事情があって、
こちらに転校するに辺り、
妙な取引がされている噂の真偽を確かめ、
それを調査する為に、
その取引現場とされている幽霊が出る廃墟に潜む事で、
発見次第排除を要請された為である。
少々この廃墟は他の取引現場と目されている所と距離があり、
その上人数を多く配備すれば、
人気のない場所ゆえにばれやすい。
その点、
私の場合はただの女子高生が一人という事もあり、
住んでいたのがばれても警戒されないし、
力ずくで排除も容易いと思われるという大きなメリットがある。
デメリットがあるとすれば、手加減が出来ない事であろう。
捕縛や確保という事は私は向いていない。
少人数であれば出来るとは思うのだが、
それ以上が相手となると、
命に危険があればあるほど、
私は加減が出来ない。
その先にあるのはただただ殲滅あるのみである。
とはいえ、
人員を多く配備できず、
確実に取引に遭遇した場合対処が出来、
尚且つ命の危険性が高い現場に私以上に向いている人員はいないので、
デメリットを考えた上でも、
メリットの方が大きい為の処置である。
むしろ、
私の場合人数が少なくないと逆に不味い事も多い。
簡単に言えば、
私の存在は大型の爆薬のようなもの。
敵も味方も自分すらも巻き込んでしまう。
そして、
それには避けようも対処のしようもないというどうしょうもないものだという事。
「なんというか……
　大雑把よね。」
泳がせて泳がせて、
大本にたどり着くから、
そんな方法はダメだという話も出たらしいのだが、
そもそも、
私は公僕であって公僕ではなく、
ただの女子高生。
そして、
私が処理した場合、
そこで何が起こったかなんて分かるわけもない。
完全なお茶濁し。
さらに言えば、
そうやって私が暴れた後、
そこで取引を続けようなんて考える人間は確実に減る。
最後に、
私のやり方の立証は不可能。
罪には問えないし、
そもそもその為の私の存在である。
そうして、
３ヶ月の時が過ぎたわけだが、
私にとってこの廃墟での生活は……
「暇ね……」
その一言が全てである。
実際暇なのである。
気を張っているから余計にというのもあるが、
幽霊が出ると聞いて、
多少楽しみにしていた所もあり、
期待が外れてがっかりした事も含めて、
暇加減が酷い。
時折、幽霊の噂を聞いて肝試しだの、
度胸試しで来る連中もいるが、
少しからかうと逃げていくものも多く、
乱暴にでるものもいるので、
全くもって面白みが少ない。
今日も今日とて暇な一日が終わるのかという時、
この廃墟へと人が足を踏み入れる感覚がした。
速やかに息を殺し、
潜んで入ってきた者達の様子をみる。
今回もまた目的の人たちではなく、
単なる幽霊が出るということで、
冷やかしにきた連中なのかと考えたが――
静かに耳を済ませると、
いつもより人の数が多く、そして――
どうにも、冷やかしにきたのではなく、
何らかの目的をもってきたのが分かる。
気を引き締めてタイミングを見計らう。
「幽霊が出るって噂のせいか、
　ここでの取引は安心して出来ますね。」
「違いない。
　――その噂目当てでくる連中なんて対してしれている。
　通報したとしても、
　警察が動くまで時間がかかるから、
　その間に逃げれば良い。
　ここより都合の良い場所なんて滅多にない。
　とはいえ、
　長居しているわけにもいかないだろう。
　さっさと品と金の交換といこう。
　これがこちらの用意した金。
　頼んだ品は用意しているな？」
「ええ、ええ、勿論ですとも。
　私達は約束を違えません。
　こちらが例の品物となります。
　ああ、そちらとは今後も上手くやっていきたいので、
　色をつけておきましたよ。
　今後ともご贔屓に。」
「それはそれは――」
彼等は目標であり、
そんな会話からして、すぐに取引は行われるのだろう。
１０数えてから踏み込む、
そう思ったとき……
「おい、餓鬼共、何をしている！」
「個々は餓鬼の遊び場じゃねぇ！
　お前等捕まえろ！」
そんな声が飛び込んできた。
隙間を通じて隣の様子をみてみると、
銃を突きつけられた子供達３人が震えている姿と、
取り囲む男達。
トランクケースを開けて確認する男達の姿が見える。
なんてタイミングの悪い。
「この餓鬼共どうします？」
「どうするも何も、決まっているでしょう？
　……幽霊に殺されて、
　行方不明に。
　丁度いいではないですか。」
「なるほど、確かに。」
しかも、一刻の猶予もないらしい。
「やれやれね……」
小声で呟き深呼吸。
勢いをつけて――
一気に隣の部屋になだれ込む。
『なっ！？』
まさか私がいるとは思わなかった、気付かなかったのだろう。
私の出入りも、
取引を始める前に、
この廃墟を調べた時に私が隠れていた事もあって見つけられず、
まさに相手にとってはわいて出たようなもの。
それは焦る。
そして、その一瞬の隙をついて、
銃を構えた男達の足を払い体勢を崩し、
「早く逃げなさい！」
そう叫ぶ、
だが、怯えた子達は震えるだけで何も出来ない。
舌打ちをして仕方ないと、
子供達を外へと放り出そうとした所で、
――パァン。
そんな乾いた銃声と共に、
私の足に灼熱の痛みが走った。
「ぐッ……」
どうやら、撃たれたらしい。
それはそうだろう。
ひるませる程度しか効果の無い攻撃、
不意をついたとはいえ、
攻撃を受けずに冷静でいた者達ならば、
対応するに十分な時間である。
「いや、まだ人がいたなんて、
　勇敢なのはいいですが、
　相手が悪かったですね。
　逃がすわけには行きませんし、
　どうなるかは分かっていますね？
　売り飛ばすのもいいですが、
　貴女のようなじゃじゃ馬では捕まえるのに苦労しますし、
　ここで仕留めさせて頂きますよ？
　ほら、ぼやっとしてないで撃ち殺しなさい。」
痛みにこらえ両手を広げて立ちはだかる。
「早く逃げなさい……」
子供達を守るように。
自分が犠牲になっている間に、
なんとか逃がそうとする。
だが……
それも間に合わずに私は、
その全身に銃弾を浴びる。
そして……
当然の如く、
私の体だけで、子供達は守れるはずも無く、
子供達の体が血の海へと崩れ落ちた。
「あ――」
私の力も抜けていく。
私には護る力はない。
少なくとも、この時はまだ。
それを痛感しながら、
私の体もまた血の海へと――
「やれやれ……死体の始末もお願いしてもいいですか？」
「勿論、
　弾代も只ではないが……
　どちらも色をつけてくれた分も考えれば問題ないな。
　任せておけ。
　全くついてないな。
　こんなタイミングに居合わせるなんて。」
「警察の関係者……
　とも思えませんしね。
　まぁ、だったとしても同じ事ですが。」
薄れ行く意識の中で、
そんな会話を聞く。
ああ、本当に滑稽な話。
救えるものを救えずに――
ここにいる全てに死を降り注ぐ。

何度も何度も殺される。
痛みが私に降り注ぐ、
苦しさが私を苛む。
何度も何度も覚醒し、
何度も何度も繰り返す。
周囲にいる者達も、
それに巻き込まれ死に絶える。
朝日によって、解放された時、
そこにあったのは死体の山と、
その中心で立ち尽くす私の姿。
残された物証、
不可解な死体、
その場から消えた私。
事件は迷宮入りし、
廃墟の噂は加速する。
私が私の仕事をなした結果だけを残して。
――失われたものは戻らない、
救おうとしたものは救えなかった。
果たしてそれは――

「勝利、とはいえるかしら？
　私はそうは思えないわね。
　これは完全な敗北よ。
　誰がなんといおうと、
　少なくともね。
　でも、私は涙を流さずに笑ったわ。
　嗚呼、本当についていない。
　この場に居合わせてしまったなんて。
　私も彼等も、子供達も。
　結局、
　こんな結果でしか終わらないと分かっていたのに。
　否、
　こんな結果は約束されていたのに、
　少しでも可能性を見出した私を笑ったわ。
　その姿は他人にどううつったかしら？
　私は思うわ。
　魔女が笑っている。
　まるで運命を嘲笑うかのように。」
違うかしら？
アルネスさんへと私は笑いかける。
彼女は途端に微妙な顔になり、
心配そうにこちらをみてきた。
「えっと、その、
　なんていっていいか分からないけど、
　それでも、
　自分に精一杯出来る事をやったんだから、
　そんなに自分を責めなくていいっていうか、
　責めないでほしいかな。
　どうしても仕方ないって事もあるし。
　その……」
そういって私を慰めてくれようとする彼女に、
私は笑って告げる。
「昔の事よ、
　それに関して折り合いはとれてるから気にしないでいいわ。
　――ま、私も敗北しているって事よ。」
「それならいいんだけど……」
まるで何かを誤魔化すかのように、
何かを覆い隠すかのように。
私が今思い考えている事は――
私だけが知って刻んでいればいい――

はい。定番の反応ながら、正体なんて気付きません。