野良エンブリオの精神攻撃に対し、反射的に棒付き飴を叩きつけ、野良エンブリオを黙らせる。
暫く様子を見て動かない事を確認すると、もう起き上がるなよと呟き、戦闘態勢を解く。

「ははっ！魔力は低い癖に中々やるじゃねーか。もっとも、俺様ならあんな雑魚一発だけどな」

先ほど白猫が跳躍した木の上に、白いローブを纏った人が見下ろしている。
変化の術はそう珍しいものではない。
高い魔力を持つ魔物や動物が人に化けるというのはよくある事である。
もっとも、それで口調が変化するかは定かではないが。

「お前…さっきの白猫か」

ほぼ間違いないと思いつつ、念の為に確認する。
木を蹴飛ばし、空中で一回転し、目の前にローブを纏った人が着地すると同時に、人差し指を突きつけられる。

「白猫とはなんだ！　高貴で上品で容姿端麗、秀麗眉目、なおかつ礼節を知り思慮深く知能最高のおれ様に向かって！大体、白猫というならコイツの方だろうが！」

いつの間に捕まえてきたのか、ラゼルの首根っこを掴んで突きつけてくる。
当のラゼルは、自分がどのような状態なのか把握出来ておらず、きょとんとしたままだ。
動きがないからか、首根っこを掴んだまま毛並みやほっぺなどをふにふにと触っている。
ようやく状況を理解したらしく、罵声を浴びせながらジタバタと暴れるも、首根っこを掴まれている為に逃れる事は敵わなかった。
しかし、良く回る口は耳障りだったのだろう。
五月蠅いの一言と共にラゼルが力なく項垂れる。

「お前！ラゼルに何をした」

「五月蠅いから眠らせただけだ。しかし、生体部品を使用したゴーレムとは珍しいな。壊れてるのが勿体ないくらいの芸術品だ」

ラゼルの首根っこを掴んだまま飴造に突きつける。
受け取れという事かと思い手を伸ばすも、軽く引っ込められる。

「芸術品を壊したまま放っておくなんて事は俺様の美学に反する。まぁ、失われた時代の一品だからな。知能最高の俺様だからこそ出来る芸当だぞ」

「ラゼルの事を俺に聞くな。確かにそいつは魔造体だが、自分の意思で動いている。俺がどうこう言う事じゃない。本人に聞くんだな」

そうかと納得したように呟くと、ラゼルの首根っこを掴んだまま荷物の様に扱う。
よほど強力な術で眠らされたのだろう。
ぞんざいに扱われているが、ラゼルが目覚める気配は一向にない。

「おい人間。お前、名はなんと言う」

「・・薬屋飴造と名乗ってる」

「はっ、うそ臭い名だな。まぁいい。お前の魔力は覚えた。コイツを直したら次はお前の番だ。お前の使う術の全て聞くからな。俺様の知らない術があるなんざ、心理の探求者の名が廃る」

覚悟しとけよと言い終えると同時に、目の前の空間が歪み、何もない空間が現れる。
ラゼルを掴んだままローブの人が空間に入っていくと、何事もなかった様に元の空間が広がっていた。

「やれやれ、厄介なのに目を付けられたな。まぁ命があっただけましだな」

状況的に、先ほどの白猫が化けたのが白いローブの奴なのだろう。
一応、ラゼルは白猫を追って行った訳だし、壊れた芸術品を直すと言ってたのだから殺される事はないだろう。
もっとも、この場合の直すがどのような意味合いを持つかは知らないので、後はラゼル次第である。
ふと、白猫かと聞いた時の返答が頭を過る。

「礼節とはなんだったか」

荷物の中からたんぽぽ荘の鍵を取り出し、溜息を吐きながら自室へと戻って行った。

などと言いながらカポッと壁を脱ぎ捨てた

自分のお金という事を忘れて感動している！

自分の分を求めてやってきた陸月がぶつかるとナズナが持っていたアイスが地面に落ちてしまった！

などとやっている間にもアイスはどんどん溶けている