闇があった。



　あらゆるモノが一緒くたに混ぜ込まれ、掻き揚げられ、揉み砕かれる。
　履歴というにはどこまでも粗雑で、歴史というにはあまりにも煩雑。
　絵の具をすべてひっくり返したように濁りきった沼の底。

　今の私は、この暗黒が私のものではないことを知っている。





　火があった。



　燃料は不滅。闇を照らす光でありながら、それ自体が闇の中。
　対象は不問。焼き尽くさなければ気がすまないのだろう。
　動機は不明。いや、火はそれ自体が存在動機か。

　今の私は、この熱情が私のものではないことを知っている。





　アルヴィンと、あの化物。
　私の中にふたりいる。











　錆びた鉄と、腐った虫や鼠の死骸。
　それらが発する鼻をつく臭いで現実に引き戻された。



　ここは、何度足を踏み入れたか判らない地下牢。
　道筋は既知。最奥に向けて一歩進むたび、砂利と埃が巻き上がり煙たさが増す。





　白昼の悪夢。

　アレは……悪夢じゃない。悪夢なら良かった。
　でも、違う。真実という言葉を被せるには軽すぎる、たんなる事実。



　ぞわり、と。背後からの視線に総毛立つ。

　おそらく、アルヴィナの動揺に気づいたのだろう。
　気遣いといった情念に基づくものではなく、
　言わば反射、対応の類。意思の伴わない機械的な仕草である。



　躊躇いがちに、目の前の少女の名前を呼ぶ。



　返事は無い。自我が感じられない。



　そろそろ死の王と相対することになるから準備するように、と告げる。
　この少女はその程度十分認識しているだろう、と知った上で。

　応答が必要な内容だったから応答する。ただそれだけだ。



　沈黙が、アルヴィナの肩に重く伸し掛かる。
　警戒を怠らず進まなければならないと思いつつも、
　廊下でつかつかと鳴る足音のテンポが速くなっていく。



　

　やがて……周囲の明かりがいっせいに消え、闇の中にぼんやりと浮かび上がる不死の王。
　一度挑み、敗れた。私達がここにやってきた目的。

をう文が考えていると、どこからとも無く声が聴こえる

文の目の前にクリスが姿をあらわすが、第一声に文は驚く