おとうさま。

わたしのこと、ちゃんと見ていてね。

はは……革命は、挫折の時も、いくらかは美しい。それは革命の敗北が、大きなものに虐げられる小さなもののために殉じたこと、自分の命を自分ではないなにかのために投げ出したこと、敵うはずのないものになお雄々しく立ち向かったこと……つまりは、《美談》だからだ。

革命は、いつも死と敗北の影を引き連れている。それはそもそも不可能な叛旗、し遂げられない作戦、やりおおせるはずのない決戦だ。
革命は、美しくあるようにできている。
だからこそ私たち革命のアルチザンは、その美しさに甘んじるわけにはいかない……。

天性を磨く反復もまた第二の天性、か……。
着飾るのも粧うのも嫌いじゃないが、あんたの毎日の手入れを見ていると、
そこまではできねーとも思う。
そしてまた、こうも思うんだ……装うってのはまあ、大したことだったんだな、ってよ。

……あんたなりに、考えたりはしないのか？
あんたはなぜ美しいのか。美しさを目指すのか。
そしてなぜ……籠の外へ出られないのか。知らずとも、思い描くことは。

だろうな、フィガロ……あんたは誰かを愛したことも、
たぶん、惜しんだこともないんだろう。きっと。
愛の手触りは、どう要約したらいいものか、少し難しい。焦がれる気持ち、と一言で言えばそうだ。でそそれだけじゃない。

それは必ず悲しさを含んでいるし、幸福な気持ちもある。燃えるようでもあるし、沈むようでもある。手触りは温かいが、どうしても苦しい……

……愛はきっと、
《ここにあるものに届かなくて悲しい》
という気持ちなんだろうな。
あたしはそう思うよ。

嫉妬が、良い？　ちょっと意外だな。
今までなにかへの嫉妬を肯定することはなかったか？

あたしとあんたずいぶんたくさんのものが食い違う。
しかもただ噛み合わないんじゃあない、時にまるで逆の向きを向く……
だからこそあたしは、あんたに惹かれるのかも知れないがね。

これだけ違うあたしたちでも、似たようなものの中へ向けた、似たような身振りをとることはできる。あんたの手探りに合わせて、私やヤールもきっと手を伸ばすだろう。私たちは仲間なんだから。
だが……その時に指先が探り当てるものは、三様にまるで異なっているだろう。私たちはお互いがあまりにも異邦人なんだから。

……私はそれをさびしいことだとは思わない。

……この世界の革命が、どこへ行くかはわからない。
フィガロ、私はね、この世界で初めて、革命を不定に委ねているんだ。
私が馴染まないように見えるのは、きっとそのためさ。
図案を引かず、革命軍の同士討ちが絶えず、確たるヴォワールがない……
そんな革命の中で、人はどれだけ革命を信じるのか。
針路を失った革命は、似たような茶番へ漂着するのか。しないのか。

私はどれだけ人を信じられるのか……

反復の先、規定の路線の行く先に、脱線を避けて乗り続けることが、あんたの世界のきっと金科玉条だろう。その体現者のあんたが、逸脱を厭わないなんてことが……
……あるなら、私は嬉しいがね。叛逆は頼もしい。どんなものでも。

……死の先に、最高の未来なんて、ありゃあしねえよ、フィガロ。死は死だLa mort n'est que la mort。行き止まりだ。そこからどこへも行けない。誰にも会えない。
……あの日見た光景ってのは？

フフ。あんたには蠍がある。私には翼がある……ヤールには牙があり、それぞれにもう少し別様の力能がある。それぞれに恐ろしく、……力になる。エンブリオ、この世界の奇妙な幼子。私たちの未来は、こいつらが導くんだろうなとは、思っているよ。どうにも無口なやつらだが……

不思議な味……

わたしは、――この先へ行こうと思う。
わたしは、戦い続けなければならない。
王がいては、わたしはわたしで居続けることが出来ないのだから。

悪ぃなシズク、俺一人で片付けるつもりが・・・ッ！！

偉そうなこと言って無茶ばかり・・・・・・・弱いくせに。

私の名は・・・・・・まぁこの力の下では不要な存在だ。