――何故カダイエを目指すのか。

　天使病の人々を癒す方法を探すため。
　グレイマンさんの身体を治すため。
　……僕らの願いを叶えるため。

――ではなぜ。ではなぜ、カダイエに近づくごとに僕は絶望してゆくのだろう？

　……。

――フライバイはいなくなった。グリゴリさんは目覚めない。
　　ペドロさんの顔を見たくない。リレッタさんも、クリスさんともあまり口をききたくない。
　　……グレイマンさん。……ジュリ。……。なぜ。なぜ？

　……、……。



どうして僕は絶望してゆくのか。
（けれどそれをひたすらに求める以外に、僕には一体何ができる？何が、何が、何が。）


弾かれて宙を舞うコインが落ちる、落ちる、落ちる、その高みから。
そうして――僕が見るのはコインの表か、それとも裏か？

誰か。
誰か。
誰か、……

ルーアハ。


　

一歩近づくごとに体を強張らせる様子が見て取れる。
もう触らないという言葉に反応するように一度ふわっと羽を逆立てると、また元と同じくらいの大きさに戻り
また首輪に手が伸びないか警戒しながらも、撫でられるにまかせていた。

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後日。休んでいた姿勢からカミユの声に億劫そうに視線をやると
じろじろとカミユの表情を伺いながら、特に隠すでもなく得意気に答えた。

手が解かれて、残念そうに医者は乱れた襟を正す。
睨まれたときから、ほとんど表情は変わらない。、
ただただ偽りなく、目前の事象を見て、面白そうに笑っている。

水場の場所を聞いて、何事もなかったかのように、ひらひらと手を振る。

声が投げられたのは、少年が彼に背を向けた後のことだ。

　

　
ふふ。と、笑う気配ひとつ残し、少年が振り向いたとしても、
そのときには水場に向かう医者の背中しか、きっと見えなかった。

微かに、囁くような声。けれど、酷く掠れたそれはとても言葉足りえず、くぐもった響きだけを残して消えた。

首を巡らせる。何度も、何度も、何度も。
それでも探し物を見つけられない竜は、やがて身を翻して駆け去っていった。
探し物を捜しに、探し物から遠ざかっていった。