最後に、彼らのこと。そして彼女について。
そしてほんの少しだけ、私のことを話そう。
話せることは、そう多くはないけれど。



毒を防ぎ、毒を糧とし、毒から身を隠し、毒とともに生きてきた彼ら。
彼らは、遥か昔にその島を訪れた祖先の姿とは似ても似つかぬ形に変化していた。
そうしなければ、生きられなかった。

彼らの体表は脆く、崩れやすい。
それは清浄な空気を体内に届けるために、全身が言わばフィルターのような体組織で覆われているためだ。
濾過によって集まった毒素を粘液で固めて排出したものが、役目を終えた組織とともにポロポロとこぼれ落ちるのである。

彼らの体はほとんどが土や石のような色をしている。
だが、しばしば毒素が化学反応を起こすためか、体の表面が燃えるように発光して見えることがある。
その時、彼らは土くれのゴーレムではなく、神聖なる森の神のような美しさを見せる。

だが、何よりも独特なのは、その全身を覆う無数の目であろう。
目とは言っても、それらは実際に視力を持つ訳ではない。それらが感知するのは、身に迫る脅威や異常である。
死角を覆い尽くす無数の目は、いわゆる『直感』のような形で彼らに情報をもたらすのだという。

しかし、彼女以外の人間が我々を感知することはできなかったのに、何故彼女だけが私を正確に見つけられたのか。
それは彼女だけが持つ特別な経験が、彼女の『目』を成長させていた為かもしれない。
様々な偶然が重なり合った末に、私は彼女と出会ったということだ。

彼女と出会い、そして命を救われた私は幸運だったのだろうか。
こうして記録を再生し、様々な想いを巡らせることができるようになって、初めて気付くこともある。
彼女が捨てなければならなかったものの重さを、今はせめて私が持っていかねばなるまい。

彼女は今日も笑っている。きっとあの日と変わらぬ笑顔だろう。
今や私のものとなったこの身体は、少しずつ剥落し続けていく。
燃えるような色の残光とともに。

――在りし日の彼女の面影をここに記録する――　　　　　　　　

プルはちょっとご機嫌になった。
ちょっとだけぴょんぴょん跳ねている。