ひどく思い詰めたような、溜め息が聞こえてきた。小さな屋敷を後にしてのこの道中、コリトはずっとこの調子だった。俯いた顔は笠の影に隠れ、ため息も聞こえた数は十を下らない。

　少し離れた位置を歩くバリオがこぼすと、その隣にいたプレソが溜息をつく。これはコリトのそれとは違い、呆れたような嘆息だ。

　仏頂面を浮かべたまま、プレソはちらりと後ろのコリトを見やる。
　のろのろとぼとぼと歩いていたと思えば、今度は立ち止まり来た道を振り返っている。その姿がひどく未練がましいものに思えて、プレソの苛立ちがジリジリと増している事など、コリト自身はまるで気付いていないだろう。

　火を吐くような形相で言い捨てると、プレソ隊列の先頭にいるゼゼのところへと詰め寄っていった。

　語気も荒く、プレソは契約主へと言う。続いていた互を避ける空気も、ここ最近はだいぶ緩和していたため、プレソも以前の様な調子を取り戻押しつつある。
　しかし一方。ゼゼは、ああ、と気のない返事を返しただけである。

　訝る声と、僅かに怯えの含まれた視線が送られる。多少は改善したとは言え、完全に元通りではない事をプレソは自覚せずにはいられなかった。
　だが間もなくその様子に気付いたのだろう。ゼゼは気を取り直す様に咳払いをすると、改めてプレソへと向き直った。

　少し言いづらそうに語るゼゼの言葉に、プレソは「ああ」と軽く頷く。

　山岳の先の屋敷に隠れていた者。オリヴィア。先王の娘と名乗る少女の存在はぜぜにとって意外であり、衝撃であったのは間違いなかった。

　追いついてきたバリオが会話へと参加する。それを認めるとゼゼは頷いた。

　まったく、とプレソは頬を膨らませる。
　ゼゼの言う通り自己顕示欲ならばそうである可能性はある。だがあの異形がパラダイスの姿を模して描かれていた確証もなければ、ゼゼが深読みし過ぎているという線は大いにある。
　それに。本当に王がエンブリオならば――

　バリオに謝るところに投げかけられたプレソの言葉を受け。ゼゼは目を丸くしてコクりと頷いてみせた。

　馬鹿にしすぎ、とプレソは口を尖らせるがそれ以外にもう一つ考えた事はあった。
　もし本当にネクターを取り上げた王自身がエンブリオであり、城の周囲のエンブリオが増えているのだとしたら。
　――王はエンブリオを契約から開放するために、この政策を行ったのではないか？

　心中で呟き、プレソは思い至った考えをそっと奥にしまい込む。
　これ以上は余計な考えだ。そんな安直に利益や得に繋がるとは思えない。それに何より――

　前王の時代、それとなく名前を聞く機会はあった。だが辺境の砂漠に住むゼゼが実物の姿を自らの目で見たことは無い。
　それに疑問はもう一つある。

　悪政に怒った前王の姫君が逆賊パラダイスを討つため立ち上がる。
　それが実現していたならば、世界に及ぼす影響は少なくなかっただろう。
　前王は善政を敷いたことは今もこの世界の民の心と記憶に深く根付いている。賛同する者も少なく無く、多くの者がそれを大義と受け取ったのではないか？
　そうすれば、他世界に頼らずこの世界の民だけでも――

　別世界から来た者たちとの会話は有意義であり、面白い。それを否定する気など起きはしなかった。

　――俺も現金な奴だな……

　自嘲気味に心中で独白する。さすがにこれ以上は思考のドツボに嵌りそうだ、とそう思った。
　話題を変えよう。そう考えたとき、ふと最初にプレソが来た時の事を思い出した。

と、どこか口ごもる様子を見せると言いにくそうに。

解答に感謝を覚える。ただそれでも表情が優れないのは、そこに譲れない一線があるからなのか

それがもし自分の世界があぁであるゆえの錯覚に似たものであってもと

問題ないといわれても、手遅れに近い自分の世界よりも、こちらのほうに尽力したい気持ちがあるようで

すこしいいにくそうに、自分の気持ちの整理のために言うようなことじゃないかもと、前置きし

真剣な表情で懇願しました

失念していた節があった。尾を防護する布や袋は見たことがない……が、

うん、くるしい。

こうして未知の技術を説明するのは何かと久々な気がする。世界が変われば文化も多様、大きく異なる。1から説明するのは骨が折れるが、その未知の世界に思いを馳せるには十分なものであろう、か。

おちおち森の中も探索できない。森林浴もできやしない。
おまけに意思疎通もできないのだから性質が悪い。

武門一辺倒に妙に納得した声。筋力が比較的高い種の中でこうした学者という職に就いているのは物珍しいのだ。

分割された世界の中で数多の花が咲き誇る、そんな場所。