エンブリオの枠が満員で…いっぱいいっぱいになっている
シルキーはとっても可愛いし技もステキ
ちょっと気取って見せる所とかラアに似てる
気も合うようで今は良い話し相手になっている

ラアの入ってる小瓶はひび割れてから昼間はリュックの中から出せない
エンブリオの力を借りるにしても外に出しておいては消耗が激し過ぎる

ラアは夜になると瓶から出て来て1日分の文句を言う

しかし私は知っている
ソナー完備＆ばりばり夜目が効く吸血鬼に真っ暗なんてあり得ない事を
しかしあちこちの風景を見てはしゃいでいたラアが外を見られないのは不憫だ…

以前から手紙で事の次第をヨハンくんに知らせてあったのだけど
何とかなるかもしれないから至急帰れと連絡を受けアクリスの家に帰った
玄関のアーチに描かれた花の絵に色が付いていて思わず笑顔になった
外の木陰にヨハンくんの馬車が停まっている

中に入るとヨハンくんがパイナップルのジュースを飲みながらくつろいでいた
これじゃ私の家…というよりラアの家…というより皆の家だな
ついつい自嘲気味な笑みが漏れるが…何時でも泊まれるし、まあいいや

ヨハンくんは私達に気付くと

惜しかった…
日記のノートを買おうと店を回ったのが悔やまれる…しかも目当てのは売り切れてたし
超悔やまれる…超残念…せめてここまで走ってくれば良かった…ぐぎぎ…

ロック氏は悠久の時を生きる中央皇国バシリスのジェスター
皇国のジェスターという事はジュエルスの何処へでも出入り自由…
そして有史以前の事まで何でも知っている…何でも教えてくれるとは限らないが
世間では変わり者の賢者として知られている…私の憧れの存在だ
憧れだけど顔とか知らない、オレンジ色の髪をしているらしいけど
そういう人沢山いるし、普通の格好でそこらへんの街中をうろついているとか…
でも威厳が無さ過ぎて気付かれないらしい…私だってすれ違う位してるかも

そもそも私がラアと異世界を旅してるのは成り行きとはいえ
報酬の家の為じゃない（いや、まあ、ありがたく貰っとくけどさ）
そのうちロック氏に会わせてくれるって言うから…

ひとり脳内で葛藤しているとヨハンくんが切り出した

実を言えばこの小瓶、ラアを入れるまで本物というのはちょっと懐疑的だった
本当に本物なら5千年以上前のものだし…こんなに奇麗なはずない…と
でも、本物だった…そうなると直せるあてが無い

…いつの間にかベラスケスは人間やそれに近しい「職人」だと思い込んでいた
長くても千年やそこらの寿命で、だからベラスケスの○○は遺物だと…
ロック氏のように悠久の時を生きる者が他にいても不思議じゃない…不思議だけど

そしてヨハンくんの一人称「おら」はあまりに威厳が無いのでせめて「わし」にしろとモグラさんに言われたらしい

ちがう、ここは「探すしか無いわね。何かてがかりは？」と言うべきだろう
分からない事だらけな自分の世界の事、歩き回って確かめるのが普通だったのに
何故だろう……ヨハンくんにはつい遠慮無しに不満を言ってしまう…吸血鬼なのに

それって…ロック氏とベラスケス氏に会えるってことじゃない！

我ながら現金だと思うけど笑みが漏れる…嬉しい笑みが…だって卒倒しそうな位嬉しいんだもの
ロック氏から連絡があったらモグラさんが知らせてくれる手はずになった

ヨハンくんの品種改良したパイナップルジュースを飲みながら
明け方近くまで日記とか見せながらメルンテーゼの話しをした
調理場に出る農場の作物達に興味津々の様子だった
お腹も空いたし冷え込んで来たので肉団子入りのポトフを作って食べた
貯蔵庫にある野菜のほとんどは輸入品だ…アクリスの地は野菜栽培には厳しいから
ノートを買い損ねた話しをすると羊皮紙をくれるというが
あまりに上質の大きな羊皮紙なので遠慮…1枚だけ貰って切って使う事にした

ヨハンくんは明日から暫くアクリス中央部あたりに水脈の調査に行くという
モグラさんの仲間が湿気っぽい土があると教えてくれたそうだ
本当に働き者だな…と、感心する

彼の羊皮紙は地質や水脈、生産可能な作物の書き込まれた地図になる
私のノートは…普通のノートでいいから