玄雲が、罪のしるしから剥がれていったのを感じた。
花びらの散るような、水の滴の葉から零れるような、僅かな抵抗とともに、けれど結局は抗いようもなく。

ずいぶん長い間そこでずっと潜んでいたのに、何故か、不意に。

深く暗く渦を巻いていた、闇夜の気配。
離れてはじめて、それが私の腕に纏いついていた間、いかに私を苛んでいたのかを知る。
視界に掛かっていた紗に、取り払われてようやく気づいたような奇妙な感覚。

常に玄雲の存在を感じていた罪のしるしに、今はうっすらと、真朱の力を感じる。

わたしがあれを追い出しました。
引き剥がして、結びつきを断って。

そう、真朱は言う。

いまやわたしは実体を持たず、そのために、あなたとの結びつきはより深くなりました。
まして、種は違えど鬼同士のわたしたちは、つながりを強めやすかった。
そしてあれは、あなたには、そしてわたしたちには不要でした。 不要以上に、害悪でした。

玄雲はもとより、合意ではなく略取によって、一方的な契約を結んでいたという。
だから普通よりも、引き剥がすのが容易だったと。

確かに玄雲は、倒れた私のもとに、気づいたら憑いていた。
それをよしとして拒まなかったのは私だけれど、一方的な契約といえばそうだったのかもしれない。
真朱は以前から玄雲をよくないと言い続けていたし、感覚から言ってもその言葉はきっと本当なのだろう。

だが、それでも。

私の腕のしるしを追われた玄雲を、私は、憐れに思ってしまうのだ。
私の元が玄雲にとって望んだ場所だったのか、そうでなかったのかはわからない。
だが、居場所を追われる痛みを、私はまだ、自分のものとして覚えている。
覚えているのに。