その日、黒閃の雷蛇ことラインは東奔西走していた。
それは人を狩る為でもなければ、狩る前の下調べの為でもない。
不要なモノを必要なモノへと提供し、求められた要求に応え代わりに自身の要求を通すコト。
すなわち、取引というモノだ。

ブツブツとぼやきながらも取引の準備を進めるライン。

今の彼は一般人に紛れる為の”仮の姿”ではなく、彼本来の”裏の姿”だ。
そんな彼が”彼”として取引を行う相手など、当然カタギであるハズがなかった。
取引相手は裏ギルドと呼ばれる組織に連なる者達、――賞金首どもだ。

彼自身も世間一般からすれば賞金首である。
それは己の信念を貫いた結果であり、組織の為ひいては王の為だと信じての行いだ。後悔の念など微塵も無い。
それでも賞金首として付け狙われる身で、1人生き抜ける程生易しい環境では無い事も理解していた。
それ故に、自身も裏ギルドに所属する決断をしたのだ。


だが他の連中はどうだろうか、自分以外の賞金首の連中は。
ラインのように信念を持って人を襲う者が居るのか？
中には欲望のままに人を襲い傷付ける者だって居るのではないか？

分かっている、分かっているのだ。

それが、むしろその方が当たり前である事など。
賞金首は世間からの爪弾き者だ、弾かれるだけの理由を持ってここに居るのだと。


自分と彼らは違う。
決して相容れない、相容れるはずがない。
この取引はギブアンドテイク、互いに互いを利用し合う、それだけのもの。
そうだ、私はヤツ等の様な――

ふいに、声が漏れた。
それは全くの無意識であり、耳にして初めて気付いた程だった。
辺りを見渡しても誰も居らず、その声が自身から発せられたのだと痛感させる。

ラインは口をキツく閉じて、激しく首を振った。
ついでにぽこぽこと頭を叩く。

先日ボスに言われた話が耳に残っていたのだろうか。
”裏ギルドに入って友達は出来たのか”、と。
その言葉の真意は全く分からない。だがふいに零れるほど気になっては居たのだろう。


ラインは深く溜息を付き、呼吸を落ち着かせる。

考える事を放棄し、ラインは取引準備を進めていった。
その様子は何処と無く楽しげだったが、それに彼自身が気付くことは無いのだろう。
今の所は、まだ――

なら……せめて……