フロラとダイゴという恐ろしい敵を下した僕たちは、さらに水辺の奥へと侵攻した。相変わらずいつ来ても小川のままだが、植生がシダ植物に変わり青いらせん状の葉がいくつも生えている。川辺には霧が立ち込め、あたりはぼんやりとしていた。

「知ってるか？　シュルケーはよくこういった小川で釣りをしていたんだ。何の魚も釣った記憶は無いけどね」

「えー、ずるーい。何で発案者の私よりエルの方がシュルケーについて詳しいのよ」

　大王イカを倒したのが遠い昔のように思える。一行はかなり長い旅をしてきたように思える。だが、まだ一揆の成就には至っていない。
　シュルケーはこの女子高生……ミズリィの考えたキャラクターだという。馬鹿正直に考えるならばそうだろう。だがエルの魔法は別の可能性を導き出そうとしていた。

『このミズリィという娘、かなり入り組んだ魔法の呪いがかかっているな。そもそも実体があるかすら疑わしい。彼女が自分で考えた話……それこそが実際に起こった出来事に近くて、そこで起こった異常事態から生成された虚像なんじゃないか？』

　しかし、この陽気なミズリィに向かってお前は虚像だと言う気にもなれない。魔法の呪いを解き明かして、彼女の意思の行きつく先に帰ってもらう……それが丁度いい。それこそが、魔法の解き方というものだ。

「ミズリィ、君の記憶の中で僕は君の同級生だったと言うね。どんな風な学校生活だったんだい？」

「ええと、私とエルは同じ普通科の高校生で、普通に勉強したり同じく闘鶏部の部員だったりしていただけだよ」

「闘鶏部！？」

「エルの『地獄デストロイヤー号』は強かったんだよ〜。でも運命の決勝戦、私の鶏が負けちゃって、団体戦敗退……夕陽の河原で再起を誓ったっけ」

「すごいな……さっぱりわからん」

「その河原で二人並んで座ってたら、エルが手のひらを重ねてきて……♥」

「恥ずかしくなってきたからもういいよ……」

　エルは会話をしながら、シュルケーにしたようにミズリィに魔法をかけていた。魔法によって何か手掛かりを得られないか探りを入れているのだ。しかし、このミズリィ、精神の一枚裏がよく分からないほど混沌としていて魔法のつけ入る隙が無い。まるで対魔法訓練を受けた工作員のようだ。

「えー、これからがいい所なのに！　青春よ、青春！」

「僕の青春は魔法書を眺めているだけで終わったよ……」

　しかし、何故だろうか。このミズリィはロマンチックな話題を話している時だけ……彼女の心の奥から不思議な光が現れるのだ。
　それは魔法でしか見えない光だったが……混沌とした彼女の心の中で、唯一観測できる、微かな光だった。

　――しっぽが揺れている。

帽子の耳が何かを探るように動いている・・・・・・