ついにエクレムがパーティから消えてしまった。パーティの面々がテントサイトで朝目を覚ましてみると、すでにエクレムのテントはなく、エクレムのテントがあった場所には書き置きのみが残されていた。書き置きは風で飛ばされないように石の重石が載せられており、「庭師に戻ります」といった言葉が書かれていた。

シュガーは不思議と安堵していた。貴重な戦力が損なわれてしまいパーティにとっては困難な事態ではあるのだが、エクレムの穏やかな資質からして、彼は一揆のような無秩序な荒事は元々向いていなかったように感じられていたからのである。

そもそも、一揆衆は軍隊ではない。軍規はないに等しく、一揆の参戦者同士の戦闘もまれではない。一揆衆には異形の者共が多く所属しており、魔界じみた城内のありさまともあいまって、正気を保っているにはそれなりの資質が必要なのだ。

アイリスは長年分割世界での冒険者の経験があり、黒月は猫のようだが生物なのかも判然としない正体不明の存在だ。かくいうシュガーは怨霊に囲まれていれば幸せという、すでに明後日の彼方へたどり着いてしまっている人間であった。シュガーも冷静になって考えると、一揆の狂気に染められる前に、エクレムは故郷の街で庭師の職務に励んでいたほうが本人のためだろうと思われた。

アニマの警告が胸をちくりとさす。そして今日も今日とて冥府から声が届く。そしてその声色は、いつもの朗らかで明るい様子とは異なり、シュガー達の心情と同じく、夕暮れ時のヒグラシの声のごとく、うら寂しげな声であった。

アニマのシュガーを見つめる目に哀れみの色が浮かぶものの、シュガーは腕組みしたままニヤと笑い、まあ、冥府殿の言う事は外れちゃあないがな、と嘯く。人の目を気にしていては怨霊拳の継承者など勤まらない。そう言う意味で空気を読まないシュガーとアニマは相性がよかったりするわけである。

一転して冥府の声は爽やかな初夏の山並みのごとく爽やかな声でナレーションを続けた。

ぼやきつつもシュガーも頭を抱える。エクレムの個人的な幸福はさておき、事態は深刻であった。シュガーがどんなに強がり、嘯いたところで、ただでさえ貧弱なシュガーのパーティは半壊状態というトホホな状態なのだから。

シュガーは怨霊と会話をしているようです

シュガーは怨霊と会話をしているようです…

ドゥーロは装飾品の上に鈴蘭を乗せ、エンチャントのスペルを唱え始めた・・・・・

鈴蘭が柔らかな緑光を発しながら溶ける様に装飾品へと吸い込まれていった