「それでは、いただきます」

「いただきまーす！」

　エンブリオ達と焚火を囲み、夕食を摂る。プライベートでこれだけ大人数での食事は久しぶりだ。

「さて、それじゃ改めて現状の報告を」

「ちょい待ち。その前に一つ訊いときたいねんけど」

　私がお椀に口をつけるより先に、マリアが口を開いた。

「何でしょうか、マリア」

「……なんでうちだけ、再契約からハブられてるんでしょーか？」

「え？　単純にあなたが使えないエンブリオだからですけど？」

「うわ、ド直球に来たなぁ〜」

　いつもより多めに作った味噌汁は、少し味が薄く感じられた。エンブリオ達の反応から察するに大失敗はしていないようだが、兄さんならきっともっと上手く作れていただろう。

「分かっているでしょう。あなたの力では、この先の戦いは厳しいと」

　彼女は聡いエンブリオだ。この中では最も状況判断力に優れ、いざという時は統率もとれる。兄さん抜きでの戦線維持も、彼女が居なければ為し得なかっただろう。

「ん、まーなぁ。理屈では納得しとるんやけど」

「多重契約にも限りがありますし、申し訳ないですが今は非契約の身であることを受け入れてください。私に同行するつもりなら、それはそれで構いませんので」

「ああ。とりあえず暫くはスズに同行させてもらうで、最短でもクロかハガネが見つかるまではな」

　父、そして兄の失踪。彼らを見つけ出すのが、今の私に課された最大の使命だ。

「……スズさん。私からも一つよろしいでしょうか？」

　フェアリーの妖花が続けて質問する。彼女とはこちらに来て初めて知り合ったエンブリオだ。

「はい。何でしょう」

「食事の支度中に言っていましたよね、『明日から再び、狩りを始める』と。先日の対吸血鬼戦でのダメージも癒えぬうちに、あなたは再び人を襲うという。真意をお聞かせ願いますか」

　彼女もマリアと同じく、このなかでは理論寄りのエンブリオである。もっともな疑問ではあろうが、当然私も無策でそのような言葉を発したわけではない。

「今日の戦い、見せてもらいました。はっきり言って、今の私たちの実力は中の下クラスです」

　彼らの視線が私を射抜く。その瞳にはありありと、彼らの不満と怒りが見てとれた。

「――勿論、一揆衆の中でも最前線に立ち、アクティブに動く面々に属する事を前提とした者の中での評価ですが。あまりにも足りない。欠乏している。力が、技が、装備が、策が、人脈が、魂が」

「おい、スズ。お前はそれを補うために来たんじゃねえのかヨ？」

「はい。ですが、私はあくまで切欠に過ぎません。もしここから上に行こうと思うなら、さらにアクションを起こさねばならない」

　即ち、狩り。他者から奪い、貶め、踏み台とする。

「ですが、本当にこのタイミングで仕掛けるのがベストなのですか？　私には少し焦りすぎているように見えますよ」

「そうでしょうか？　私には、むしろ貴方がのろまに見えますが」

「……へぇ」

　笑みを浮かべる妖花。私もよくやる、意地の悪い笑顔だ。

「もしかすると、貴方は大きな勘違いをしているのかもしれませんね」

「勘違い？」

　私はゆっくりと腕を伸ばし、妖花へと近づく。警戒するその華奢な体躯にするりと右腕を潜り込ませ

「既に『詰むや詰まざるや』なのですよ、今の私たちの状況は」

　喉元を掴み手近な木の幹へと叩き付けた。吸いかけの息と唾液が、小さな口から僅かに漏れる。

「う……ぐ」

「時間が無いんです。例の大規模援軍から既に一ヶ月弱、早い者は既に王の懐にまで迫ろうとしている。断言させて頂きましょう――最早この一揆は折り返し地点を過ぎている」

「なあスズ、その辺にしといてくれへん？　折角の飯が不味くなるわ」

「失礼、ですがもう少々お待ちを。故に私達は、多少強引な手段を取らざるを得ない。あなたは先程言いましたよね、本当にこのタイミングがベストなのかと」

　腕を振るい、妖花を権六の方へ投げ飛ばした。ごつい身体で器用に彼女を受け止める彼の目には、やはり敵意があった。

「正に今なのですよ、ベストタイミングは。確かに手痛い敗北を喫しましたが、だからこそ、今再び負けたとしても失うものは限りなくゼロに近い」

　リスク・リターン・期待値。それらを天秤にかけた時、今進むべき道は明らかだ。

「今やるべきことは、恐れ、怯え、逃亡することではない。警戒し、応戦し、打破すること」

　痛みに惑わされるな。進め、進め、前へ。

「そのために、今はやるべきことをやりましょう。――スイ」

　キャバクラでの元同僚のキョンシーを見やる。眠そうな眼をこすりながら、彼女は夕餉へと箸をつけた。

「……ん。おいしい」

　めざしのしっぽを口の端から覗かせながら、彼女はにへらと笑った。

そこまで言ってから、ん？　と言われたことについて考え直して、

現れた女性をシエラは怪訝そうな瞳で見つめる