お館様を討つ……

　いきなりそんな話を持ち掛けられて、ツナちゃんはひどく混乱したね。

　お館様は御所に貢物もしてたし、都とは友好関係にある豪族だった。

　どこか別の豪族に唆されたのか？　はたまた単に江山の鍛冶技術を手中に収めたいという欲望からか？　
　
　理由を色々考えてみても、大義名分の無いものがぐるぐると回るばかり。

　困惑しているツナちゃんを見て、頼光様は左大臣の方をちらりと見た後、静かに話し始めた。



「にわかには信じられない事でしょうが、我々が私欲にて朱呑童子殿を討とうとしているわけではない事……お分かり頂けたかと思います。」

　お館様を討たなければならないその理由を聞いたツナちゃんはと言えば、その、途方もない理由にただただ茫然。

「君が武家の出であればその責務を全うすべし……などと強要する気はありません。ただ、我々の計画に従えないのであっても、どうか今話した事は内密にして欲しいのです。あ、これはそこの陰陽師に誓いを立てていただきます。
　計画に従うかどうかは君の自由ですが、この話が外に漏れる事だけは、我々としてもひどく困るので、人に話したら死ぬような目に逢う呪詛をかけさせていただきますね？　」

　何から何までブッ飛んだ話……でも、この場にいる面々の顔ぶれが、この話が冗談ではない事を雄弁に物語っている。

　そこでツナちゃんが出した答えはと言えば……

「やめ…やめて……」

　抉れた肩口を反対の手で……すっかりと指の切り落とされた掌で抑えながら、哀れな犠牲者が頭上の獣に懇願する

　ソルトはと言えば、凍り付いた表情でその凶行をただただ見守る。

　ざっくりと割けた額から滴り落ちる血で真っ赤に染まった顔を凶悪な牙の並ぶ口でぺろりとそぎ落とすと、獣がケタケタと楽しそうに笑った。

　顔面を失って力なく崩れ落ちる幼い少女の躯

　それをもう一度掴み上げてハンガーにひっかける

「やめ…やめて……」

　安っぽいドラマのように、手段だけが毎回変わりながら、同じ結末をたどり続ける。

　まるでスプラッター映画のハイライトシーンだけを編集で繋げたような。

　そんな悪夢のような光景をソルトはただひたすらに血の気の引いた表情で見つめ続けた。

すかさずみんなの背後に隠れる！　こそこそ

ラズロのことは覚えていないらしい

ララの言葉を自分なりに意訳したようだ

>>二君に仕えるつもりもねぇんでサムライに戻る事はありやせんね

>>任侠ってぇのは法に拠らず権力に拠らず、自分の考え方で世間に尽くして
腕っぷしで世の中を渡って行こうってぇ人間の事でやすね

　　　　　　そっと巻物を増やした