農場の朝は早い。

水を撒き、作物の具合を見る。
雑草を取り除き、害虫を駆除する。
土を耕し、暴れる野菜を鎮圧する。

それなりの重労働だった。
ミチエは自らの菜園の世話をしていることもあり
作業自体は親しみのあるものだったが
エンブリオとなる可能性を持つ野菜と対峙した経験は無かった。

投獄された罪人は此処で野菜と闘わさせられる。
勝てばその収入の一部が保釈金として支払われる。
勝つだけの力が無いならば、此処で普通の農作業をほぼ無料働きで続けるしかない。

北とは比べるのも馬鹿馬鹿しくなるほど肥沃な土地だ。
満ちる大地の霊力を吸い上げ、野菜は隆々と育つ。
一般の農夫たちの手には負えないほどに。
故に、捕らえた荒くれたちをぶつけて、力づくで収穫する。
収穫された屈強な野菜たちは高値で市場へと売り出されていく。
霊力に満ちた野菜は、霊薬にも等しい効能があるからだ。

そうして一揆衆の、ルリアンナの活動資金となる。
これだけの農場があるからこそ、彼女はあれだけの活動が出来る。
ルリアンナに関する黒い噂は絶えない。
不審に思う者も少なくはない。

あの女は、一体何者なのか。
その目的もなにも、明らかにはされていない。
問い詰めても笑顔と、とぼけた返答で受け流すだけ。
底の見えない、濁った沼のような瞳で。