満開と為ったネクターの花がソレを散らし一粒の果実が残る。
強制的な散華では無い、実を結んだソレには大量のネクターが含まれている。
何処からか、スルリと白い人影が手を伸ばしソレを掴みとり、自らについた口と思わしき黒い穴へと放り込む。
咀嚼も、飲み込みもせず、その白い人影は満足気に頷いた。

「毎回こうスマートに出来れば良いのにねぇ、サイ」

白い人影は甘ったるい声でそう語りかけた。
サイは木によりかかるように背を預け目を瞑っている。

「それにしてもぉ、この世界の連中は随分と足踏みが好きなのねぇ」

くすくすと笑う。

「どの方ものんびりとしているのはこの世界ならではなの？
　平和で良いですわねぇ」

こうして時間を潰しているのには幾つか理由がある、が白い人影が言うように、それが皮肉であってもそうであるのだろう。
暴虐の王に対し反旗を翻し戦いを挑んでいるという行為にしてみれば随分と速度の足らぬ話だ。
樹々の間に見覚えのある巨躯が現れる。
同行者の一人、リドレーという男だ。

「すまない、遅れた」

リドレーは最低限の言葉だけ紡ぎ、チラリを白い人影に目を向けた。
どうやら見えるらしい、否、見えるようになったらしい。
数日前までこの白い人影はサイ自身以外にはサイの生命力を吸い尽くさねば視認出来る程の存在感が無かった筈だ。
つまりはこの短期間で改めて大きく力を付けているという事でもある。

「構わねぇよ、急ぐ道でもねぇわ」

サイはそう言って預けていた背を木から離し指で怪しい建物の入口を指す。

「取り敢えずさっさと済ませようじゃねぇか」

リドレーは頷き建物の前に陣取っている女とエンブリオへと向かう。

「そうですねぇ、私達に急ぐ理由等無いですもの」

そう言って白い人影はスルリとその姿を消した。

話しかけた男の外見のせいもあったであろうが、舌打ちされ、あからさまに娘は動揺の色を見せた。

思い浮かべるのは、親友がまだ女児として育てられていた頃の姿。

バルディッシュから槌に持ち代える。