昼間、あんな事を言われてしまったから余計に意識して、露骨に避けてしまった。
でも・・・。

恋しているとわかった途端、面と向かって話す事なんてできるわけない。


彼の声を聞くだけで・・・。

彼の顔を見るだけで・・・。

彼の目に見つめられるだけで・・・。



心臓がドキドキして頭が真っ白になってしまうから。

本当にどうしたらいいのかわからない。
今じゃ前みたいに自然に話すことがもうできなくなってしまい、本当に辛い。


考えれば考えるほど自分がドツボにはまっているのが分かった。
もうこの事は考えない事にしよう、そう思った。


そう思いつつも廊下にリヴァランがいないのをこっそりと確認しつつ、キッチンへと向かった。


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キッチンでミルクを温めカップに注ぐ、落ち着くにはやっぱりホットミルクに限る。
一口飲み、ふぅーっと一息つくと心は少し落ち着いてきた。
冷静になってくると色々な考えが脳裏を巡っていった。

ふと、少し前の出来事を思い出す。
彼女の言っていたあれはなんだったのか・・・。

『アステマ・ファムを破壊してくれ。』


彼女は何の為にアステマ・ファムを破壊してくれなんて言ったのだろうか？
そしてお父様は此処で何をしていたのだろうか？

前も考えたことで、これは一つの仮説にしか過ぎないが、お父様は妖魔の国から亡命してまでも此処でアステマ・ファムを破壊する術を探していた。
それに関わっているのがあのフリエという少女ではないのか？

リヴァラン・・・いや、あの子が百年以上も生きているのだから、彼女もまた生きていてお父様と関わりがあってもおかしくはないだろう。


彼女はお父様と一緒にアステマ・ファムを破壊する術を探していた。
何故手を貸してくれたかはわからないけど、彼女にとってもアステマ・ファムを無くしてほしかった。
だから娘である私に破壊してくれと彼女はお願いした。
もしくはお父様の願いであったアステマ・ファムの破壊がまだできなかったから・・・・・・それを託してきた？

このどちらかだろう。


でも一つ問題がある。

カップをもったまま自室に戻り、鍵のかかっている扉を開くと、そこには布で覆われた筒のようなものがあった。
ゆっくりと布を外していくと白い銃のような物が姿を現した。

それを持ち上げ、落とす。




パリンッという音と共にその銃は硝子のように粉々になっていったが、すぐ破片が集まり元の形に戻っていった。


これは私が創り出した偽物、本物のアステマ・ファムではない。
つまり例え破壊する術が見つかったとしても本物は此処にはないのだ。


私が捕まった時などの事を考え、亡命した時に本物は別な場所に隠したのだ。
それが実は領地なのだが、これには理由があった。

アステマ・ファムは他の魔剣と違い、誰でも使えるというわけでない。
それは妖力が強い弱いは関係なく、起動には虹彩認識を必要としていて、サタナエルの特殊な目でしか行えないからだ。
だから仮にアステマ・ファムを探し出されたとしても私が捕まらなければ現状、起動することは不可能で、
私が捕まったとしても持っている物は偽物で、本物がまさか領地内に隠しているとは誰も思わないだろうという策だった。


だけど、今となっては領地に戻ることもできないし、失敗したと思っている。


偽物のアステマ・ファムを元の場所に戻し、今は寝ることにした。




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翌日、一揆の事でまた出かけなければならないので朝から準備をしていた。
私はというと昨日考えていた破壊する術が分かったらどうするかを考えていた。

名前を呼ばれてハッとする。
そこには馬車に荷物を積み終えたリヴァランが立っていた。

そう言い残して、リヴァランはどこかへ行ってしまった。

私としても都合がいい。
今は彼を前にまともに喋る事はできないだろうから・・・。


そういえば私もそろそろ準備しないと・・・と思い、孤児院に戻ろうとした時、誰かに呼び止められた。

あの時の占い師だった。

でもどうして此処に？

そう言ってゆっくりフードを外すと、綺麗な顔立ちの女性だった。
それ以上に目につく頭のそれ。

その目につくそれを見ると、私の中で何かが弾ける音がした。

気づいたら彼女に抱き付いていた。

彼女は若くして襲名した私を支えてくれた唯一の理解者である侍女、レイチェルだったからだ。
レイチェルは元々、母親のいない私の乳母としてお父様が雇った妖魔で、その後も私を支えてくれたのだ。
乳母というが歳はさほど離れているわけではなく、昔からお姉さん的な人だった。

少し言いにくそうに顔を伏せるが暫くして重い口を開けた。


主人のいなくなったコーネリア領はアスモデウスの統括となり、その後は非常に苦しい生活を強いられていた。
だからレイチェルはエリスに戻ってきてもらおうと探していたらしい。

そう聞くと、レイチェルは鞄の中から大事そうにそれを取り出した。
とても綺麗な装飾が施されていて、戦闘で使えるようなものではなく、壁に飾るような短剣であった。

それだけ言い渡し、短剣を受け取る。

これで一つの問題は解決した。

　

納得したらしい。
ぐっと握りこぶしを作って決意を一つ。