摩訶不思議たるドドルガンの生態を語る前に、そもそもドドルガンとは何なのかについて軽く触れておこう。
ドドルガン
エカッツテージ書に刻まれた原文によると、この名前はドド・ル・ガンの三つの言葉から成り立つ複合的な意味合いが由来となっている。ドドとは超越、支配などを意味する古代ヌ・シ語で、ドド・ル・ガンはル・ガンを支配するとなる。ルは草を、ガンは大地を表しており、現代の言葉に直訳すればドドルガンは
『草と大地を超えたもの』『草原を支配するもの』となる。

では何故古代ヌ・シたちはドドルガンをこう評したのだろうか。
豊かな恵みをもたらすヤーズル平原とともに長き時を過ごしてきたヌ・シ族らにとって、家畜の放牧は命の綱であり、その餌である草を刈り取るように食い散らかすドドルガンは大敵であった。だが、彼らはドドルガンを敵とは考えていない。巨躯たるドドルガンが血肉を食さず、草のみを食らう姿から、ヌ・シはドドルガンを同じ祖霊を持つ同胞であるとみなしている。化け物としてではなく、ドドルガンという名前を意味のある文章で示すことは、名前をつける事で一方的にその存在を貶めないための配慮なのである。

ドドルガンはヌ・シの生活に根付いた存在だった。
草を食らい尽くすもの、彼らドドルガンはヌ・シの通過儀礼には欠かせない。ドドルガンを追い払う儀式はヌ・シ族が勇敢な戦士になるための神聖な戦いであり、彼らは自慢の弓でドドルガンの弱点たる眼球を射抜く。
一般に、ドドルガンは5〜30の眼球を持つ。年齢を重ねるほどに眼球は減り、確認された中で最も少ない個体は眼球が二つであったという。眼球の数が少ないものは弱点も少なく（このあたりは草食動物と肉食動物における視野の問題と関連していると思われる）、視野も狭まるが、死角を増やしてもそれを補うだけの強い力を備えている。そういった事情から、儀礼で戦うのは10〜20の眼球を持った若い固体がほとんどである。
眼球とドドルガンの話に欠かせないのが、エカッツテージにのみその名を残す幻のドドルガン、『ドドルドドルガン』だ。
ドドルドドルガンとは伝説に登場する三匹の一つ目のドドルガンを指し、太古の昔ヤーズルの地を支配していたのは彼ら三匹のドドルドドルガンであったとされる。他のドドルガンをまるで無抵抗にやられる餌のように扱うほどだったことから、ドドルガンの草を超えるものの名が付けられ、ドドルドドルガンはこの時代のヌ・シたちに恐怖として君臨していた。

この恐怖を一本の矢にて打ち破り、ヤーズルにヌ・シの国を築いた英雄こそ、名高いガガヌノゾップ＝ヌ・シ＝ドドドドルガンだ。彼は襲い来るドドルドドルガンの唯一の弱点たる眼球を真正面から射抜いたことにより、ドドドドルガン（ドドルガンを超えたもの）の称号を得、当代にまでその名を残している。ドドルガンは直進以外の行動が不得手であるため、通過儀礼においてこれを真正面から射抜いたものには、英雄にならいドドドドルガンの栄光が与えられる。

（中略）