そうぼやく薙疾が考えているのは、世界移動の方法についてだ。
一昨日の時点で二人に声をかけてみたのだが──


ゴードニアの王女、グレンダは自分は送り出してもらっただけで知らない。
知っているのは、自分の国の神官だと。


異界のエージェント、ミフネは「ドアを潜るだけ」とは言っていたが。
そのドアを作るのにはミフネの世界の科学力の粋を用いた装置？が必要とのことだ。

薙疾がぼやくとチカゲとチトセが顕現し、指摘をしてくる。
それに対して薙疾は不満げに返答をする。

メルンテーゼを闊歩するのは、人間・獣人・ロボ・概念・惑星（！）……なんでもござれだ。
そもそもエンブリオがいろいろな姿で点在している以上、姿形に拘る人が少ないのもあるのだろう。

しかし、これが人間だけの世界に1人だけ獣人が混じっている……などであれば話は別だ。
薙疾の出身世界であれば、比較的人間に近い姿をしているモクでも世界中の話題となるだろう。

その場合、魔法による移動手段を得て故郷──ニタン帝国に帰ったとしても、再度の移動は出来ない。
故に、薙疾は魔法に頼らない移動手段を確保しておきたいと考えているのだ。

自分だけではなく、他の一揆参加者を呼び寄せている張本人。
魔法だと言われるかも知れないが、様々な世界に招集をかけられるくらいならば手段は一つだけとは限らないだろう。

中には薙疾が求めるような手段もあるかも知れない。

国家、または王族への叛逆は一族郎党皆殺し。

少なくともニタン帝国ではそうであったし、近隣の国家も全てこれは揺るがない。
国家を脅かす存在は芽を摘むのではなく、芽を出させない必要がある。

国が国として存在するのなら、メルンテーゼでも相応の重罰があるはずなのだ。


しかしルリアンナは闘技大会の司会進行に登場し、今日も新たな一揆参加者を招待している。
自由に行動している彼女を捕らえるため、王城から兵団が派遣されたなどの話は全く聞かない。

そう言うと青年は折り紙を始めた。
どうやら羽根つきの甲虫らしい。

It's 馬鹿である。

要するに宇宙における住所不定ということでもある。
もっとも、種によってエリアは決まっていたり、特定の領域を保持しているものも多いのだが。

照れくさそうにはしゃいで見せる。
そして力強く、自分に言い聞かせるように頷いてもみせた。

使者であるどころか、白痴の魔王の化身そのものであるという事実を。
――当然、彼女はまだ思い出してはいない。

けれども、今の彼女であれば、それを思い出したとしても
チハヤに変わらずに接することが出来るのではないだろうか。
そんな一抹の希望を抱きながら、青髪の従者――這い寄る混沌は控えていた。

薙影が魔力を介し、鎧が駆動する。