そこは完全な真っ暗闇ではなかったのが驚きだった。
洞穴の壁にはたくさんの苔が生えていて、それが光っているようだ。

僕は穴を進んでいった。
一本道だったので迷うことはない。

湿った空気。
僕は銘菓、湿気には弱い。
乾燥材を身に着けているとはいえ、あまり長居はできない。

ほどなくすると、急に風の流れが変わったようだった。
先程まで、壊れた教会へ抜けていく向かい風だったのが、急に追い風に変わった。
どうやら他に風の抜ける道があるらしい。
それがどこかは暗くて分からないんだけど。

さらに進んでいくと、道が二手に分かれていた。
いや、正確には一本道。
左側の道はどうなっているか見えないけど、少なくとも正面は途中で行き止まりになっているのがうっすらと見えた。

当然、左側を進もうと考えた。
しかし、その交差点に差し掛かる寸前、僕は歩みを止められることになった。


『そこにいるのは誰だい？』

ひび割れた声が正面、行き止まりの道から聞こえた。
声の主は分からない。

目を凝らしてよく見ると、暗くて良くわかないけど、丸い石のようなものがぽつんと佇んでいるのが分かった。
そしてそれが声を発しているのも。

「君こそ誰だい？」

僕は尋ね返す。
しかし僕にはある確信があった。

『まさか、君はいのちかい？』

相手は驚いている。
当然だろう、こんな所に同胞がやってきたんだ。

「そうだよ。君もいのちかい？
僕より以前にここへやって来たっていう……」

僕は同胞に会えた喜びと懐かしさとで急いで駆け寄ろうとした。
しかし、

『それ以上近付いては行けないよ！』

強い叫び声で止められてしまった。

「ど、どうしてだい？」

そう尋ねて、僕は微かな匂いを嗅いだ。
この臭い匂い……。
これは、そう、この匂いは……。

『よく来たね、同胞。
ここにやって来たということは、君は正規の派遣いのちじゃないね。
僕と同じく、自らの存在に疑問を感じ、はぐれとなったいのちだろう。

僕も以前は君と同じく、AOMORIの誇りとして生まれながら一個、旅に出たいのちだった。

しかし2年前、膝にカビを受けてしまってね……』

やはり、この匂いはカビの匂いだ。
僕は戦慄した。
カビに冒されたお菓子はもう助からない。
朽ち果てるまで栄養として、彼らの繁殖の温床として生きながらに包まれていくのだ……。

『とにもかくにも、よくここまでたどり着いたね。
偶然なのか必然なのかはともかく……』

「僕は確かに自分が何者かを探してやってきたけど、それはこの世界にその疑問に答える何かがあるかも、って他人に言われて来ただけなんだ。
君は一体何を知っているんだい？教えてくれないか？」

『いいとも。僕に答えられることなら答えよう。
僕の前任者がそうしたように』

どこからともなく錆びた鋸を出した。

躊躇なく、自分の左手首を鋸で切り落とした。
手首はあっさりと斬られ地面に落ちる。血は出ない。痛がる様子は……少しだけあった。

持ってた鋸を貪り始めた。
みるみるうちにバラバラになりアリフェの体内へ吸い込まれていく。

左手首があった部分に、新たにさっきの鋸が生えてきた！

落ちた左手首を拾い上げる。

どこか懐かしくなるようなメロディの歌だが如何せん歌詞が分からない……