私はトキサメ。
忍者である。
今回は依頼を受けてこの枯れた土地へとやってきた。
一面の砂と、
風によって舞い上がる砂で、
目が痛いし、喉もいがいが。
――正直辛いです。
でも忍者として請け負った仕事は絶対。
秘密の作戦なので、
どんな仕事なのかは明かせません。
依頼主？
忍者たる者、依頼主の名前も明かす事は出来ません。
忍者たる者、秘密厳守ですから仕方ないのです。
そして忍者たる者、
その姿も影も見られてはならない。
絶対的な隠密が必要となる。
例えこのような場所であっても。
正体を隠すこの黒装束に、
私の完璧な忍び足をもってすれば、
何人たりとも私を察知する事は出来ない！
私は忍者だから、
気配など当然の如く出ていないし、
姿を捉えるなど出来ないから！
ふふふ。
何かテンションが上がってきた。
そう。
私は忍者、超一流の忍者なんです！
誰しも私を捉える事は出来ない、
ならばこの依頼貰ったも当然！
忍者に失敗なし！
ふふふ。恐ろしすぎる。
私のあふれ出んばかりの忍者センスが！
そう、私はこの世界最強の忍者！
誰も私の影を踏む事すら許されぬ！
ふふふ。
乗って来た、乗って来た、
今の私は最強の忍者すら凌駕する存在――
そんな絶頂の瞬間だった。
「ねぇ。貴女――」
静かな女性の声が不意に背後から聞こえた。
「ひぇああッ！？」
馬鹿な、今の私は最強の忍者すら凌駕する忍者のはず！
何故だ！
何故私を補足できたのだ！
ありえん！
ありえなさすぎる！
しかも私が勘付く事無く素早く気配もなく近づいた！？
くっ……認めたくないが認めねばならんようだな！
「なな、なんだ貴様らッ！
　このトキサメの忍び足を超える忍び足でしかも速い！」
私を超える存在である事を！
くっ……
あまりの恐ろしい事態に動揺してそれが口に出てしまった。
ぐぬぬ、まさか奴等之すらも狙っていたというのか！
まさか、この最強忍者であるトキサメの、
完全なる隠行術を見破り、
しかも奴等の気配も音もまるでしなかった……
あんなに普通そうに歩いているのに！
に！
私はこんなに頑張ってるのにナンデ！？
だ、駄目だ、考えるんじゃないトキサメ……
私はやれる子だ！
やれる忍者なんだ！
こ、こんな時、どうすればいい！
どうすれば忍者らしく、
忍者の威厳を保てる……！？
は、そ、そうだ！
「これは秘密の作戦……
　見られてしまっては仕方ない……」
私は今、
秘密の作戦をしている。
そして、見られてしまった以上、
退く事も何もしないという事には出来ない！
「……ここで眠っていてもらうッ！！」
そう。
これはもうなかった事にするしかない！
このトキサメ全ての力を……
……
この場所、
私の力振り絞るに最悪の場所じゃないですか！？
どうしてこうなった！
どうしてこうなった！
だ、だが、
こうなってしまってはやるしかない！
大丈夫だ、私は出来る子！
忍者として完全に完璧に任務を遂行する！
それだけだ。
そんな私の耳に……
「――――ああ、そっか。
　かったらたべていいってことだね。
　いただきます。」
え、何それ、
私負けたら食べられちゃうの！？
え、それ、何？
性的になの？
それとも物理的なの？
え、いやいやいやいや！？
あれ、ていうか……
１vs４？
あれ、私一人で闘わないといけないの？
そ、そうだ！
こういう時は分身の……
……
ご飯食べてないし、
喉も乾いてるし、体調最悪で使えない……？
……
しまった！
何故、どういう事……
はっ！？
まさかこれは奴等の策！？
やってくれる……
おのれ……
何者かは知らんが、恐るべき手練れ達……
だが、私は負けない！
最強の忍者として、負ける訳にはいかない！
そう……
考えて見れば分かる事だった。
「貴様等の不運、それは私に出会ってしまったこと……」
出会ってしまって不運だったのは奴等なのだ！
ふふ、私に出会わなければ、
ここで眠ってもらう事もなかったろうに！
私は最強の忍者……
奴等には知ってもらおう、
「貴様は私に指一本触れることはできない。」
私に触る事など不可能なのだと、
幻を相手に自滅するがいい！
そしてぇ！
「この毒は貴様を死に至らしめる……」
私の投げるこのクナイには毒が塗られている！
これが当たれば相手は死を待つのみ！
完璧な！
完璧な戦法！
この戦法を打ち砕く事など……
誰にも出来はしないの……
「ひゃあぁ！？」
思わず攻撃が来たので、
頭を抱えてしゃがむ。
な、なんて事をするんだこいつらは！
こ、攻撃が頭にあたったら危険なんだぞ！
ほら、脳を怪我をしてある日ぽくっと逝ってしまったりとか！
それに、
馬鹿になってしまうかもしれないじゃないか！
「……消えなさいッ！！」
く、こんな外道に私は絶対に負けない！
細切れにしてやる！
この忍者の力をもってすれば朝飯前！
余裕で……
あんまり効いてない……ね？
な、何故だ！
完璧なタイミングで完璧な攻撃、
しかも貴様等は毒によって体を蝕まれ……
あ、あの……
すみません、そこの斧もってる女の子。
な、なんで私の頭を脇に……
ギャァァァァァァァァァァァァァァァァ！？
締まる締まる！
タップタップタップ！
ギブアップギブアップだから！
あんな巨大な斧軽々もってる人にそんな技喰らったら偉い事に！
ほら、私の頭みしみしいってるよ！よ！
あ、なんか意識がほわっとしてきた。
あ、まず……
「きゅぅ……」
残念。私の意識はここで切れてしまった。

「ふぅ……終わった。」
「――また偉く地味な技で仕留めたわね。
　地属性だけに。」
「地味といえば地属性。
　地属性だから仕方ないね……ってやかましいわ！？
　しかたないじゃない。
　斧振ってもいいけど、
　あんなスピードで動かれたら当たらないし、
　当たる訳ないもの。」
突然テンパって襲ってきたくノ一っぽい女性を、
ヘッドロックで沈めたアルネスさんへと問いかけると、
ノリの良い反応がかえってくる。
ちなみ、沈んだとうのくノ一に関しては、
完全に気絶したようで意識を失っているが、
どうやら命に別状はない模様。
「ま、確実な方法とるのが順当よね。
　――で、どうするの、気絶したそれ。」
「あー。
　うん。どうしよ。」
「起こすウサ？」
「そうね。
　まぁ、本来なら身ぐるみ剥がして放り捨ててもいいのだけど、
　面白かったから起こしましょうか。
　反応が面白そうだし。」
「わたしはごはんくれたらゆるす。」
「ひでぇ。
　まぁ、いいや。
　それじゃ、ペルチェさん起こしてくれる？」
「分かったウサ。」
酷いとかいわれても、正直な話、
勝手にテンパって勝手に襲った相手に慈悲がいるのか、
というと微妙な話なのだけど、
本当に人の良い。
――分かっていて一緒しているし、
別段私にとっては面白ければどっちでも良いし……
一緒にいて楽しいのでどうでも良い話だけど。
――じっと見ているとそのうちくノ一は意識を取り戻し……
物凄いスピードで私達から離れて土下座を始めた。
「……すみませんでした、
　ちょっと調子乗ってました……」
出会った時とは大違いのしおらしい態度。
どうやらこっちが素らしい。
――なんというか、
テンションあがると周りが見えなくなるのでしょうね、と。
じーっとみていると……
「これで……許してください……」
サイフを取り出して中身を差し出してきた。
――くれる、というからには貰っておくことにして……
それでもエモさんはくノ一から目を離さない。
「ごはん」
「……え？」
「ごはんくれたらゆるす。」
「こ、こんなものしか……」
こんな時でもご飯をたかるエモさんはブレない。
そういっておむすびを差し出すくノ一から、
おむすびをもぐもぐ食べ始めた。
――とりあえず、満足しているようだから、
エモさんが暴走する事はなさそう。
ペルチェさんはペルチェさんで拾ったたくあん返そうとしているが、
くノ一はこちらにこれ以上関わりたくないのだろう、
「い、いえ、別に良いです差し上げますから……」
受けとりを拒否している。
その様子をじっと見ていると、
震えながら、
「あ、もしかしてここに用ですか……？
　地下牢への隠し通路ですけど……。」
聞かれてもいないのに、
探していた地下牢への怪談を指さすくノ一。
……重要そうな情報だけど、
本当にそれでいいのかと問い詰めたくはなるが……
残念ながら彼女は私の仲間ではない。
「あら、そう。
　ありがとう。
　それで……貴女はどうするのかしら？」
「アッ、ハイ。
　私は……
　あっちなので……
　はい、それじゃ……」
そういってトボトボと去って言った。
去り際に、
私忍者向いてないのかなー、
とかいう声が聞こえたが……
「……少なくともこんな荒野で黒装束は目立つわ。
　――全く。」
目立つか目立たないかなど……
言うまでもない事である。

《バレンタイン》

「さて。
　と。
　相変わらずこちらの時節の移り変わりは早いわね……
　なんでもうバレンタインが来るのかしら……
　まぁ、良いのだけど……」
仲間達にどんなチョコレートをあげようか考える。
ペルチェさんは食べれるとは思えないので、
鑑賞用の溶けない代物でも作ればいいとして――
エモさんはきっと量があればいいと言うだろう。
なので……３層重ねのチョコレートケーキ。
で、問題は――
「アルネスさんのチョコレートをどうするか……
　ね。」
基本的にシンプルで可愛らしいものが好きだろう。
それは分かる。
だが、
だからこそ――
「……ネタに走りたくなるのよね……
　その方が日頃の感謝の気持ち込めれる気がするし。
　どちらがいいかしら？」
悩む。
悩む。
素直に喜ぶ顔をみるか、
それとも微妙な反応を楽しむか……
……
私の出した結論はというと……
「両方作って渡せばいいわね。
　――がっかりした後喜ばせたらいい気がしたわ。
　……きっと面白い反応みせてくれそうだし。
　そうね……
　量多くしたらどうせ余った分エモさん食べるし気にしないでいいわね。
　……早速作りましょうか。」
そういって、二つのチョコレートの作成を始める。
片方はネタ用に。
片方は真面目に作った様々な動物型のチョコレート。
全ての用意を整えて、
いざ仲間達にチョコを渡しに向かった。

「という訳で、ペルチェさんにはチョコレート色に塗ったリボン、
　そしてエモさんには３層重ねのチョコレートケーキね。」
「ありがとウサ。」
「わーい、ちょこけーきちょこけーき！」
予想通りに嬉しそうに喜ぶ二人をみて微笑み、
チラリとアルネスさんの方を見て……
「以上よ。」
静かにもうチョコレートはないと告げる。
「ちょっ！？
　私の分無しなの！？」
それを聞いてびっくりしたように反応するアルネスさんに満足し、
「嘘嘘。
　貴女の分も用意してあるわよ。
　はい。
　――まぁ、
　バレンタインで私だけ用意する事になったのは何故かしらね？」
「えーっと。」
「冗談よ。
　そんなマメな事するの私だけだもの。
　……さ。どうぞ。」
「うん。ありがと。
　どれどれ。」
私の発言に困った顔をしながらも、
笑顔で受け取ってくれたアルネスさんは、
私の渡した箱の包みをあけ、
中身を見て――
アルネスさんは硬直した。
「……ナンデスカコレ。」
「え。チョコレートよ？」
「……なんか凄く怖いんですけど。」
「そりゃあ般若の面なんだから怖いに決まってるでしょう？」
何を当たり前の事を聞いてくるのかといわんばかりにいう私に、
途方にくれた顔をするアルネスさん。
「あ、味は美味しいよね。」
「もちろん。ハバネロをいれたわ。」
「勘弁して下さい。」
実際の所、
普通のビターチョコレートで作ったものだが、
本気にとったらしく真顔で返すアルネスさんに、
正直笑いがこらえきれないが、
なんとかこらえ、薄らと微笑を私は浮かべ――
「冗談よ。ただのビターチョコレート製。
　それと、本命はこちらね。」
本命の真面目に作った色々な動物型のチョコレートのつまった袋を渡す。
それを受け取るとアルネスさんはがっくりと肩を落とし……
「……冗談きついよ！
　普通に渡そうよ！？
　いや、うん、
　ほんと普通にしてくれるだけでも凄い喜ぶけど、
　こうやられると、その……
　なんか微妙な感じに！？」
「だって可愛く面白いんだもの。
　ま、とりあえず見てみたら？」
とりあえず、私としては用件は終わった。
後は喜ぶ姿をみるだけなので適当にあしらう。
そして私の予想通り……
「うわ、凄い可愛い。
　ありがとう魅月さん！
　大切に食べるね！」
満面の笑顔を浮かべ喜ぶアルネスさんを見て、
踵を返し夕食の用意をしてくるとその場を立ち去る。
感謝の言葉を受け取るには少し恥ずかしすぎるというのもあるが、
それ以上に……
「あ、でもこの怖い面のチョコレートどうしよ。
　返品って魅月さんいない！？」
しっかり食べて貰わないとね？

養子縁組でもしてたのかな？程度の認識。自分の因子をひいた子供が実在するなんて夢にも思わん。

隠れ里の守手で当主様の親族だし。自分の直属の上司の直筋でもあった気がす。更に…ん、

　

　
ねこねこにゃんにゃんのお時間です。

肉体を持たないわにゃわにゃは怖くない。時々電柱の脇でしゃがんでぶつぶつ言ってるヤツと似てる。
俺様が一発威嚇すればどっかに消えるから怖くない。
でも、今俺様の走りを邪魔するみたいに集まるコヤツ等は

俺様が怒っても中々消えねーな？

たどたどしく発音するシオンに対し、トガノは悠々と言ってのける。
呼び方の提案にも躊躇らしきものは見られない。

唐突にトガノが押し黙る。
…暫し考えるようにして。

トガノが踵を返した。
…シオンはただただ呆然と立ち尽くしている。