うっすらと差し色のように木漏れ日が入る森の中を、ミヤコは狐耳をひくひく動かし、鼻歌を歌いながら探索していた。
旅をする上で必要な食材や薪を探すためだ。
ストールを籠代わりに、果物や山菜を摘んで歩く。
”夢”の外では見たこともないものばかりで、知らない場所を進む恐怖よりも、そういった知らないものを見つけて歩く好奇心や楽しさの方が勝っていた。

と、足下に毒々しい色をしたキノコが生えているのを見つける。
赤と黄色の攻撃色にミヤコは興味を抱いた。
腰を下ろし、まじまじと見つめる。

恐る恐るキノコに手を伸ばそうとした時だった。

伸ばした腕に違和感を感じた。
いつもの見慣れた自分の腕ではなく、それは金色の獣毛に包まれていた。

慌てて手を返してみると、手のひらと指先には黒い肉が生え、肉球を形作っていた。
眺めている間にも骨の動く音と共に関節が歪み、獣の前脚へと変わっていく。

変化は前脚だけにとどまらない。
鳥肌が立つような感覚と共に獣毛が広がっていき、体つきが変わっていく。

走って他の仲間がいるところへ戻ろうとするが、

立ち上がった瞬間に転んでしまう。
足のつくりも変わってしまいバランスが取れなくなった上に、脱げかかった制服が絡まった為だった。
なんとかしなければ、という焦るたびに、変化も加速していく。

なんとか立ち上がりその場から逃げようとするミヤコだったが、体つきは既に四足歩行のものになってしまい、その度に地面に倒れ込む。
そうしている間にも身体が縮んでいき、腕が、足が、制服やストールの中に埋もれてしまう。

顔まで服の中へ引きずり込まれ、視界を覆われてしまった。制服の中でミヤコの鼻先がじわじわと延びていき、狐の顔へと変わっていく。

誰も来ないこの森の中で、知りもしないこの場所で、人ではなく獣になり果て、それからどうなるのだろう。
仲間の誰もこんな所にいるだなんて分からないだろう。
誰にも見つけられないまま。
こんな身体のまま。
ずっとずっと、一生このままなのだろうか。
果てのない闇の中に投げ込まれたような恐ろしさがミヤコを襲う。

恐怖の中で、ミヤコは初めてアマドと出会った時のことを思い出していた。

そういえば確かあの時も、こんな森の中だった。
独りぼっちで、お腹が減っていて、この先どうなるか分からなくて。
夢の中だったけれども、不安で仕方なくて、そんな不安の中で出会った彼はヒーローのようだった。

自分の狐の耳を触るアマドの手を、自分の手を握り返してくれるアマドの手を思い出す。
荒々しくて野生的だったが、自分に向けられるそれは暖かく、優しいものだった。
このまま彼に二度と会えないまま、獣の身のままずっと独りぼっちなのだろうか。

力を振り絞って出した叫び声は

狐の鳴き声となって空しく響くだけだった。

アマド（Eno.758）の日記へ続く