《だがな、離れる機会はいつでもあった。》

《声が戻った時、行き先が分かれた時、或いはつい先刻、或いは今この時でさえ。》



《…それらを悉く逃しながら、アンタが私を振り返るその度に……私もどこかで、アンタと同じ事を思ったよ。》







22：まなざしということ








……親和、敵意、優劣、興味、依存、愛憎、束縛、抱擁、羨望、理解、幸福、共感、言葉……


………








この瞳で彼を見てはならない。


その瞳で私を見ないで下さい。



後悔すると分かっている。

この言葉こそが正しいのに、言えなかった。




死してその身を魂に変えても共には居られない。

地を這う蜥蜴、宙を舞う水鳥。

火は空を飛んではならない。
水は空を飛ばなければならない。




それでもあの日……彼が私のもとに降りてきたあの日から。



彼のまなざしがここにある事。

私のまなざしをここで受け入れてくれる事。




私は苛まれるだろう。
彼を地に縫いとめておきたい欲望の炎に。

或いは炎に打ち勝ち、彼を空へ返した跡に残る、空虚の灰に。