〜前回のあらすじ〜
「トールー！！」
「あ、貴方は！？」
「迎えに来たんだ！！」
「え……迎えにって、ぇ！？」
「あ！？貴方はＳＴ▲ＲＩＳＨのＯＴＯＹＡ！？じゃ、じゃぁ」
「じょ、嬢……これはだな」
「ＳＨＯちゃんもどこかにいるの！？」
「いや、俺だけだよ。トールを迎えに来たんだ」
「そんな、急にそんなことを言われても」
「董琉……貴方、ずっと私と一緒にって……そんな、一人だけずるいじゃない！」
「そんなつもりは」
「酷い、せめてＳＨＯちゃん連れてきてよ！？若しくは私と一緒に舞台デビューしてよ！！」
「くっ……私は、一体どうすれば！！」


「っていう、展開を考えたんですけど……どうでしょう、董琉さん」
「何を言ってるんだお前は」
「ちなみに私はＴＯＫＩＹＡ派です」
「そんなことは聞いてないよ！？」





勢いの弱くなった篝火が、舞台を仄かに照らす。
先程までの神楽や、初詣に訪れた人達の喧騒も今は無い。
ただ、薪の爆ぜる音が、冬の真夜中がもたらす
耳の痛くなるような静寂を和らげていた。
……いや

タンッ．．．．．．ヒュンッ

軽い踏み切りの音と鋭い風切音が割ってはいる。
その音にあわせて、篝火の明かりが舞台に影を写す。
少し前までは、巫女が奉納神楽を待っていた場所で、
また別の巫女が人知れず舞っていた。
先程の舞に比べれば、幾分力強く、

ヒュンッ

そして鋭い。
これは剣舞。
その土地の和魂に奉納する物ではなく、
荒魂を鎮め調伏する。
そして

「…………」

カムヨリと神乃の厄を祓い、
奉納するための宮森の儀式だった。

タン―――――．．．．．．ダンッ

一際高く飛び、踏み込みと共に縦に一閃。
そして、刃を大きく切り払い鞘に収めた。
そのまま、前まで進み腰から刀を抜き三方に置く。
両手で掲げると、

「本年も、我らが巫女に穢れ無きよう」
「貴方の剣に、我らの祈りも報いよう」

舞台の前にいた未琴が、その刀を取った。

「……はぁ、相変わらずこの時だけは難しい顔になっちゃうわね」

大きく息をついてそう笑う。

「仕方ないさ」

それにつられて此方も相好を崩す。
これで、約束していた剣舞も終わりだ。

「はー、満足だわ。今年は見られないかと思っていたもの」
「今年はやらないと思っていたんだがなぁ」

手で肩を揉むようにしながら首を回しそうぼやく。
実際、外でこれをやるとは思っていなかった。

「実際は真剣でやるものなんだけどな」
「仕方ないじゃない、持ってなかったんだから。むしろ、軽くて楽だったんじゃない？」

流石に、この旅に真剣は持ってきていないので、
いつもの通りの柄に刃を発生させて代替とした。
なので、刀の鞘がとても短くて、なんだか酷く不恰好ではあるのだが。

「……うん、確かに軽かったかな」
「あー、やっぱり。私がしっかり舞を勤めたのに、とんだ手抜きよね」
「いや、まぁ……そう言う意味では。いや、そういう意味でもあるんだが」
「何よそれ？」

私の剣も随分と軽くなったような気がする。
それは、必要な責任などの欠けた、ふわふわした状態と言う意味ではない。
余計な重しやらが抜けて大きく振りやすくなった気がするのだ。
そう、彼女の為でもあるこの剣が……自分の為でもあるという。

「なんでもないさ。さぁ、早く寝よう。何時までもお祭気分と言うわけにも行かないだろう」
「あ、ちょっと！！待ってよ董琉」

だから、明日からの自分は変われる気がしたから……。




「ほれ、出来てるぞ」
「助かります、軍曹殿」

渡されたのは長い棒。
いや、その先端に輪のような隙間が出来ていた。

「釜を作れって聞いたんだが」
「ははは……」

まぁ、ただの棒にしか見えないよな。
とはいえ、言った通りの仕様に良くできている。
持てばわかった、力が伝わってくる。

「何か、違う気がするんだよなぁ」
「釜ではなくてですね」

くるりと一つ回し、中程を持って横に流して見栄を切る。
その瞬間、先端部から分厚い刃がすらりと生えて大きく曲がった。

「鎌、ですよ。依頼した物は」
「……あ、そういう。それだとしても、気付かなかったろうが……」

なにやら渋い顔だ。

「如何されましたか？」
「ん、いや……今更武器の変更か？」
「……はい、まぁ」
「慣れた武器を簡単に変えるのは良くない事だ。何かあったのかもしれないがな」
「……大丈夫です、これも昔には使っていたことのある得物です。それに」

ただ、自分が護ると言うだけで満足して、
彼女の回りだけの範囲に手を伸ばしているようでは駄目だ。
もっと先へ、遠くへ……並び立つ為に。

「変わっていかなくては、行けませんから」
「……まぁ、良い。支障が無いならな」
「ご心配をおかけしました」
「なに、お前だけだったら特に言わなかったんだがな」
「え？」

そういうと、背後から別の長物を取り出した。
先に鋭利な刃を持ち、見た事のある組紐で縛られていた。

「――それは」
「それ、出来てるぞ」
「軍曹さん、ありがとう！」

そう言ってもう一つの鎌を差し出した先に駆けて来たのは。

「未琴！？」
「あれ、董琉？その鎌……まさか……」
「こういうわけだ」

なるほど、これでは疑いたくもなる。

「まぁ、その様子じゃ示し合わせてってわけじゃないらしいから良いがな」
「……未琴、それは」
「私もね、これから前に進まなきゃって。何が出来るか考えてね」

鎌は実った作物を収穫する農具でもある。
それは、実りをもたらすカムヨリの巫女として、とても意味に見合った選択なのだろう。
では、私は……私はそんな彼女の周りの邪魔を刈り取り

「そして私の為の道を作る、その為の鎌さ」
「そっか……」
「ああ」

キンッ――

刃を合わせる。

「確かこれからは別行動だったか」
「ええ、これくらいは一人で出来るでしょうってマリアが」
「そうか、なら私の」
「ええ、私達の為にこれからの為に」

武運を。

――大きく柄を回しながら刃を消し、背面に収めた