ベアトリスとモックくんが戦いだしたのを、ぼくは止められなかった。
話し合う余地を探しているモックくんと、ただ殺すことだけを考えているベアトリスでは、勝負の意味が違う。もしモックくんが負けたら
とんでもないことになる。




そして、モックくんは負けた。





ベアトリスが、モックくんの近くに悠然と歩み寄る。
ああ、ダメだ。ベアトリスと繋がっているぼくにはわかる。
ベアトリスは、モックくんを殺すつもりだ。

彼女たち『聖女』が受け継ぐ業の一つ。魂の把握。
それを攻撃的に運用して、魂そのものを損傷する一撃。
あれをもらったら、いかに頑丈なモックくんといえど、魂そのものをバラバラに引き裂かれ、死んでしまうことだろう。
そして、マル。ぼくの契約者。君はそんなことを絶対に望まない。

そうだろ。

モックくんに向けられた刃を、その軌跡に滑りこむようにして、受け止める。
薄緑色の刃はぼくの身体に突き刺さるように見える。
痛みはない。
代わりにネクターによって維持されていた、ぼくの身体が『ほどけてゆく』。
閃光が奔る。魂の損傷。
そしてその傷は今、ぼくと契約で繋がっているベアトリスにまで達して

ベアトリス自身を侵していく。これで、時間が、稼げる。
逃げるんだ、モックくん。


ごめんよ、マル。
ぼく、まだ、きみに。　

いい　
　　　　　　　　　　　　　　　たい
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　こと　が