星の落ちた道を降り、砂地より更に低く、地下へと降り立った。

　『地下牢』と称されるその場所には、ただのひとりの囚人もいなかった。
　天井からの灯火も、鉄の格子も、どうやって、何の為にあるのか、わからない。ただそうあるべきかたちに維持されている。
　時折、異質な匂いが鼻をつく。地下牢をさまようエンブリオと、そうでない生き物達の気配だけだと、感じる。自信はない。
　空の牢獄が続く。牢が空であるというのが、喜ばしく思えない。覗き込んで丹念に調べる気も起こらない。

　かえりたい、と呟くふたつの声がある。
　どこに、という思考より先に、零れたものだろう。その感覚は、薄らとわかる。
　ここではないどこか、知る限りここよりもましなどこかへ。

　空の牢の向こうを見やる。早く。そう、早く見つけ出して、切り上げなければ。
　城内を彷徨うエンブリオのひとつ。ほかならぬ精霊のこどものために。
　ほかの、もっとましな環境もなくはなかったが、あえてこの地下牢を進んでいる。

　同じく歩みを進めていた女性が、すっと位置を変える。守るように。けれど、隠すことはなく。
　嫌悪も顕わな視線のその先に、群れがいた。
　普通の状況ならば、すぐにこどもの目を塞ぐ。そんな姿をした群れが、視認出来るほどの距離に迫っていた。

「早く、片付けましょ。――頼りにしてるわよ」
「…………うん」
「……オッケー」

　こどもも、少女も、目隠しをされない。させない。そのためにここに居るのではないから。
　そして女性の言った通り、この二人の術が、頼りになる。それは紛れもない事実であったので。自分も、目を塞ぐのではなく、相手からの射線を塞ぐよう位置取った。少しでも早く、確実に。

　群れの輪郭をとらえ、目を細める。魂の奥から、灰色の駿馬と、角を持つ白馬のいななきが響く。――祈るように。
　それを聞き取ったわけではないだろうが。群れの中の一体が、首をもたげる。

　こう、こう、と、風のような音が響くのを聞きながら――四人それぞれに、動き出していた。