薄暗い地下牢に、頼り無く足音だけが響く。
私はただ前に進む。
この先で待ち受けるものなど今は知らない。
否、私は前に進んでいる。
着実に新王の元へ。
王への反旗を翻すために進んでいる。

足取りは、「重い」。
私は骨と肉と皮でできた二本の足を動かす。
私のものではない足が私の意思に従い前へ動く。
私の知らない感覚を私は知ってしまう。

前へ。前へ。
私は進む。
だが、私はそれでどこに行くのだろう？

私の最初の目的。
新王への一揆。
私は私の世界を取り戻すためにこの抵抗を始めた。
私は一人で王の僕に抗い、死の淵にまで追いやられ無力さを知り、
彼という契約者、そして道連れを得て一揆に再び身を投じた。

全ては私の世界のため。
私が愛したあの光景を、もう一度見たいがための我儘な衝動だ。

否、否とだけ言えば、あらゆるものを否定すればすべてが元に戻ると、
私の望んだものが得られると、私は本気で信じていたのだろうか？

信じていた。
信じていたからこそ私は彼を巻き込み王に抗った。

その願いが罪なのだろうか。
この結末こそが罰なのだろうか。

もし仮に、仮に、あの男の言うことが真実とするならば、私はもう何処にも居られない。

彼と運命を共にしたとしても、
再び私たちがひとつとひとつに分かたれたとしても、
私はもう今までのようにこの世界にはとどまっていられない。
こことは違う、見たことも聞いたことも、あることさえ定かでない遠い世界とやらがそれを許さない。

一揆の果てに、私の愛したあの世界はもしかしたら帰ってくるのかもしれない。
それならそれでいいではないか。
それが私の望んだことではないのか。

だがそこに私は居られない。
そこに私はいない。
そこは最早私の世界ではない。
私の望みは私の世界を取り戻すことでは無かったのか。

ならば、私は何故戦うのか。
私の戦う意味とは、那辺にあるというのか。

思考は重い。
鉛と泥を混ぜたように淀んで気持ちの悪い感情が延々と渦巻き、泡立ち、
私の頭を毒していく。

それでも私は、この体は息をする。心臓は鼓動する。
鼻に黴た石壁と砂埃のにおいが入り込む。
肌は薄ら寒く湿った空気をとらえる。

私が私のままであれば知り得ることのなかった、未知なる「感覚」。
今はそれすら疎ましい。呪わしい。
手元にあるこの刃で首を掻き切ってしまいたい衝動がぐらぐらと湧く。
肉体とは精神体より時に単純だ。

そんなあまりにも身勝手な煮えたぎった思考と悪意と怒りの矛先は、眼前の司祭に向く。
それが何を喋っているのかなんて、もう私には関係ない。


ああ、ああ。
お前が王の配下とういうなら好都合だ。

叩き潰そう。何も考えずに。


今はただ。この憤りをぶつける先が、欲しい。