(今回の日記から他PTMの日記と時系列が僅かに前後します。）


クリスマスが終わり、年越しに向かって皆少しずつあわただしくなってきたころ。

ボクはその隙をついて北の小屋の探索に乗り出した。
水神教の印鑑に刻まれた古代妖魔文字・・・。刻まれていたのはガルディオ・サタナエルの名だった。

元八公爵の一角、前サタナエル公爵が何でシヤンハイルくんだりに来ていたのかはわからない。
ガルディオの名がこの小屋から出てきた以上、今もっとも調べなければいけないのはここだ。

もちろん、時間操作術によるボク達忌み子の延命についても大いに興味はある。

今回はミストとカーラに同行を願った。特にミストの力が必要だったのだ。
彼らにはサタナエル捜索の件は依然伏せたままである、当然だ。

教会の方からリヴァランが冴えない顔をして歩いてくる。

先日、調査が終わって用済みになった例の印鑑を『森で拾った』と嘘をついてリヴァランに渡したのだ。
リヴァランは、教会の所有物だから自分が倉庫に戻しておくと言って受け取った。
当然リヴァランはこの印鑑を戻しにここにやってくるわけだ。

リヴァランがブツブツ言いながら扉の前で開錠の呪文を唱える。
ボクらは茂みの奥からその様子を伺う。

ふ〜ん。あいつは本当にワケわからんな。

やがてリヴァランは扉を開き、小屋の中に入っていった。
そのままボク達は茂みの中で待ち続ける・・・。

数分後、またリヴァランは小屋から出てきて施錠呪文を唱えなおして去って行った。
数冊本を持っていた。ついでに中から取ってきたのだろう。何か調べものでもしてるのだろうか。

こうしてボクとカーラはとうとう北の小屋内部に足を踏み入れた。




小屋の中は、パッと見ではただの資料室だった。
隅っこの方には世界各国の玩具のようなものが飾った棚がある、これはアイツの趣味か？


とりあえず山積みになっている古文書、資料の類は全てメリフリアス水神教に纏わるものだった。
助かることに、原本とはまた別にきちんと翻訳されたノートが一緒においてある。
大体の資料はやはり例の祭壇に関するものだった。『メリフリアス大祭壇』という名前らしい。

わかっていたことだが、ここで完全に確定した。
アレキサンダー・イブリスはガルディオ・ペイン＝サタナエル・・・。
つまり標的であるエリスの父だ。

ボクやカラバがエリスの粛清のためにここに来ていることはカーラ達には秘密なので
ここは黙っておく。エリスは元現政派の公爵だしね、逃げたとはいえ。

しかし何故祖国を捨てたガルディオがシヤンハイルくんだりまで来て、わざわざ水神教の調査をしたのか。
そのメリフリアス大祭壇とやらを調べて何がしたかったのか、やはり時間操作術が目的だったのか。
おまけに偽名を使ってタリスベル教会に潜りこんでまでして、イブリス孤児院を設立したのか。

エリスには大分近づいてる気はするが、わからないことはまだまだ山積みだ。

カーラの言っていることがよくわからず、詳しく問いただそうとしたときのことだった。

外にいるミストの妖気が急変した。恐らく誰かと交戦状態に入った。
慌ててカーラが外に出ようと扉に手をかけるが、開かない。

ガチャガチャとノブを乱暴にまわそうとするカーラ。
ミストが交戦状態になってしまったことで、鍵をコジ開けていた魔法が中断されてしまったのだ。

徐々にミストの妖気が弱くなっていく。ボクらは何も手が出せない。
カーラは必死にドアを開けようとするがもちろん腕力なんかじゃビクともしない。

やがて、静寂が訪れた後・・・ドアはあちらのほうから勝手に開いた。

カーラは激昂してリヴァランに斬りかかる。
だが、大振りの一撃はいとも簡単に避けられ、背中に手刀を落とされた。

あっという間に意識を失いその場に倒れるカーラ。

完全に気付かれていた。彼がさっき中から持ち出した数冊の本。
あれがきっと一番読まれたらマズい資料だったのだ。

いや、それだけじゃなくこれを機にボクを試したのだろう。

もちろんそんなこと言えない。
だが、ミストとカーラが気絶してるのでちょうどいい。ボクは質問を質問で返す。

リヴァランはようやく合点がいったという顔をする。
やはり知ってるらしい。まぁ師が八公爵の一角ともなればそりゃこっちの事情も少なからず知ってるだろう。

リヴァランは少し安堵した顔で剣を納める。
こっちも思わず肩の力が抜ける。危なかった。正直こいつと戦ったらやばかった。

といいながらまるで悪びれてない顔をしている。まだ完全に警戒を解いてはいないのだろう。
まぁ当然だろう。いきなり見知らぬ二人を連れて尾行したんだからな。

リヴァランは倒れてる二人を小屋の中に運んで、ソファーに寝かせて毛布をかけた。

それを聞いてリヴァランは初めて悲しそうな顔を見せた。こいつ、こんな顔もするのか。

やはりボクが命を永らえるには『穢れ』を祓う方法しかないのだろうか。
そういえば、さっきのカーラの反応、どういうことだったのだろう。

ごめんね、リヴァラン。まだ隠してることはたくさんある。
彼が教会に戻っていってからしばらくして、ミストとカーラは目覚めた。

とりあえず何の怪我もなかったので良かった。
ミストはやられてもケロっとした顔をしてたが、カーラは少し悔しそうだった。

しかしリヴァランがアレキサンダー・・・先代サタナエル公の弟子だったとは。
おまけに何者かが刺客に狙われてることを警戒してた。
もうほぼ確実にリヴァランはあっち側の人間と見ていいだろう。くそ、どうしたらいいんだ。

違うのかな？と改めて興味津々な視線を注ぐ。

くすくすと笑い。

とかフォローになってないフォローをしてみる。
そしてここに来た理由について聞かれ、なんともいえない表情をしたヘリヤを見つめ。
この少女も自分と同じように簡単に人には言えない何かを背負っているのではないか、となんとなく察し。

だってやっぱり物語の最後には秘密を暴かないとね、と明るく言って微笑んだ。

そして思い出したように荷物をがさごそと漁ると、ジンジャーマンクッキーの入った袋と透き通った真紅の石の付いた簡素な細い腕輪を取り出して。

良かったらどうぞと照れくさそうに差し出した。

(好奇心を隠そうともしていない)

少しの笑顔と何か気持ちが決まったように見えた