■ Day 19 ： たった一人の、昔からの友

　わたしは、倒れて動かなくなったアサちゃんを揺すりながら、大声で叫んでいた。急に怖い顔になったと思ったら、目が緑色になって、叫びながら技を出したあと、すぐ倒れちゃって。傷を癒す力はないから、こうやって倒れてるアサちゃんを起こそうと必死になることしかできない。
　姉妹や親友と言ってもいいくらい、一緒に遊んで、たくさんお喋りしたアサちゃん。わたしが落ち込んだときは、その明るくて元気な姿にいつも励まされていた。ふと脳裏にそんなアサちゃんの笑顔が見られなくなるかも、って嫌な考えがよぎっただけで、涙と震えが止まらなかった。こんな大事なときに何もしてあげられないなんて、エンブリオ失格と言われても仕方ないくらい。

　ふと、他のエンブリオを見る。みんなアサちゃんとはわたしより短い付き合いだけど、大事な仲間だもんね……
　スタウロちゃんは、アサちゃんをちらちらと見ながら、また襲われないか警備してくれてる。
　カッパちゃんは、何かあったときのために綺麗な水をたくさん持ってきてくれた。
　ケースちゃんもカッパちゃんに付き合ったあとは、一緒にアサちゃんを診てもらってる。けど、

　ギンゴちゃんは、アサちゃんが倒れてから今まで、わたし達の前に姿を見せていない。

　そうやってケースちゃんに場所を譲ったあと、わたしはふわりと宙に浮いて、冷たい風に身を任せた。



　ギンゴちゃんは、そう遠く離れていない茂みの中にいた。目を凝らせばそこにいてもアサちゃんが見えたけど、ギンゴちゃんはその方向に背を向けて、腕を組みながら不機嫌そうな顔をしていた。

　わたしを見つけるとすぐにギンゴちゃんは飛び退いた。

　え？

　わたしは、ただ呆然とするしかなかった。

　ギンゴちゃんの目や口振りを見るに、嘘は言っていないように思えた。わたしの理解力が足りないだけかもしれないけど、何故かアサちゃんがエンブリオの血を引いているってことを、否定する気にはなれなかった。
　けど今の発言は、どう考えても、アサちゃんを、わたしを、アサちゃんとの思い出を踏み躙った。気がつけば両手を強く握っている。歯を食いしばっている。ギンゴちゃんを強く睨みつけている。そして、

　つい、カッとなって叫んでしまった。

　ギンゴちゃんは、言い切った。その顔は怒ってなんかなくて、いつも通りの顔だった。

　よくそんな顔をして平気で酷いことが言えるわね。言いたくても言えない言葉を喉の奥に留まらせて、わたしはギンゴちゃんを睨むことしかできなかった。すると突然茂みが大きく揺れ、

　スタウロちゃんの声が響いた。

　わたしに向かって酷いことを言ってたくせに、つい先程とは大違いの顔をしている。

　ついムキになって、スタウロちゃんの声がした方向へ移動する。途中ギンゴちゃんがいた方を振り返えると、スタうろちゃんに向けた笑顔なんてなかったかのごとく、鋭い目でわたしを睨んでいた。

　アサちゃんがエンブリオの血を引いている……というのはありえるかもしれないけど、わたしでもわかる明確な証拠がないと、何も動き出せない。確かアサちゃんは自分の種族を人間、と認識していたから、もしかしてキルマ家の誰か――オージアスさんしかいないわね、がエンブリオだということは伏せられていたのかもしれない。そんな相手にいきなりあなたは人間じゃないって告げられても、動揺するしかないに決まってるよね……一度、わたしだけで戻ってみようかしら。

　いざ目が覚めたアサちゃんを前にすると、なぜか言い訳と謝罪の言葉しか口に出せなかった。そんなわたしを見てアサちゃんは、自分もわけがわからないまま倒れてごめん、と申し訳無さそうにしていた。襲われた時に付いた腕の傷以外は、ちゃんと適切な処置をすれば2,3日で治るだろうと言っていたけど、まだ一人で歩くのは辛いらしく、今もケースちゃんが肩を貸さないとうまく歩けない状態だった。

　思わず後ろを見る。皆で歩き出してからも、ギンゴちゃんはアサちゃんの前に現れなかった。

にんじんは　アサミの　足を　しっかり　掴んでいる！

安心しているのか、警戒心皆無な様子だ。