「ふむ……味がしない」
「うーん、料理実験は失敗か……」

　エルとシュルケーの二人は、蒼い若布の切れ端を煮て料理実験をしていた。だが、上手く味が出てこないせいで効果のほどはわからない。

「エルよ、続報を待とう。一揆の参加者が何か見つけるかもしれん」
「そうしようかね……僕はあんまり料理が得意じゃないからね」

　調理器具を片づけて味のしないスープを捨てる。勿体ないが白湯を飲み続けることはできない。二人はテントの中を片付けて寝る準備をした。辺りはすでに暗くなり、一揆の侵攻作戦も中断することになった。

　翌朝、二人は山の方へ向かった。新しいエンブリオが出現したという情報を手に入れたのだ。情報源は……シュルケーだ。彼女が最初に言い出し、他の一揆の構成員からの情報で裏付けが取れたのだ。シュルケーは何故かエルの知らない情報を次々と提供してくる。それは奇妙なことだった。蒼い若布の効果さえも、彼女は翌朝には知っていたのだ。

　彼女は川辺で釣りをしていたり、山の斜面から遠くを小さい望遠鏡で見ていたり、情報を収集しているようには見えなかったのだ。それに彼女が情報を提供する理由も分からない。以前のエルの魔法によってシュルケーはエルの世界からやってきたことだけは分かっている。ということは、彼女も一揆の構成員として召喚されたのだろうか？

　エルは山肌から遠くを見ていた。ここからは王城は見えない。広大な敷地を保有する王、その戦いにシュルケーだけでは力不足だろう。彼女はエルの力を求めているのだろうか。疑問ばかりが浮かんでくる。

「おい！」
「うひゃぁ！」

　そのときエルはうなじに違和感を覚えた。何か虫のようなものが首筋で蠢いている。シュルケーだ。

「お前、どこからこんな所に……」
「わたしは神出鬼没なのだ」
「自分で言うことか……」

「わたしはしばらくお暇するぞ」
「また消えるのかよ。お前、悪霊に会ったことはあるか？　赤い髪をしていてな、お前のいないときによく出てくるんだ」

「あいつか、よく知っているぞ」

　それは、とても意外な事実だった。

「注意しろよ、お前と入れ替わろうとしているからな。あいつの方が召喚されるべきだった一揆の構成員だ」

懐からゴム鉄砲を取り出した