夕食を終えて盲目の少女は半実態化したセレナとともに、宿屋の一室へとその身を移し、後ろ手に扉を閉めて一息。

少女を気遣うようにして出された声は、震えた楽器のような音。

その声に、少女は背中を扉に預けながら顔を左右に小さく振って、否定を示す。

少女の脳裏には、ここ一週間あまりのことが記憶として思い起こされていく。

初めて旅へと出た当初は、なにもわからずただセレナとともに前へ前へと進んでいた。
ところがあるとき、不思議な雰囲気を持ち合わせた人物と出会った。

それがファイであった。
リラは、最初、その人物が「人」であることを理解できていなかった。
感じ取れるのは「人ではないもの」であり、しかし「魔物ではないもの」だったから。
さらに驚いたことには、出会って言葉も交わしていないというのに、
ファイに手を握られてそのまま引っ張られていった先には、またも見知らぬ人たちがいたのだ。

そのまま理由もわからぬまま、ファイたちのパーティと行動をすることとなり、
これまでは異なる場所への探索や魔物を相手とした戦闘を経験もした。
数日の間、ファイを中心としたパーティとともに行動をともにしたのちは、
リラ自身にも別の目的が見つかり分かれることとなった。

その別れ際に「なぜ私をパーティに誘ったの？」とファイに聞いたところ、
「んー・・・わかん、ないや」と答えられてしまい、みんなして笑ってしまった。

どう見ても自分よりも年下としか思えないファイであったが、
リラは見た目から感じるのとは別で、ファイの内側に違う存在がいるような気がしていた。

少女の首元を覆うようにして自らの身をおいたセレナは、わざとらしい声で泣きまねをする。
その仕草に、微笑してリラは扉の前から室内にあつられられた、古びた小机とともにある小さな椅子に腰掛けた。
机の上へと取り出されて置かれたのは、一冊の本。
否、開かれた本にはほとんどが白紙の頁、これは本ではなく少女の日記帳であった。

そこにはこの一週間あまりの出来事などが他愛のない絵などを使って描かれており、
多くの出会いや別れ、さらには驚きなどが感性豊かに表現されいている。
少しの間、これまでの頁を見直しつつリラは微笑を浮かべ、今日のことを書き綴っていく。

『おかあさん、元気ですか。お酒、飲み過ぎてたりしませんか。
　今日も、新しい人たちとパーティを組んでお城のほうまで行ってきました。
　まだ・・・うん、初めての人と一緒に行くのは怖かったのだけども、
　あの人、そうダイガさんっていう傭兵の人が一緒だったのでそんな怖くなかったです』

そこまで書いて、少女はふと手を止めた。
ダイガという傭兵と出会ったのは、数日前のこと。
怖々と出入りしていた街の酒場にて、彼はいた。厨房で料理をしつつ客を出迎える人間として。

入った瞬間に「いらっしゃい、何食べる？」と声を掛けられたのは驚いた。
大抵の人間はリラの容姿を見て、まず躊躇するからである。
だが、ダイガは気にすることもなく酒場の厨房から出てきて、少女と顔を合わせた。

「こんな時間にここへくるってことは、昼たべそこねたんだろ？
　せっかくだからいろいろとサービスしてやるから、そこ座りなーー」
「なにしてんでこのでくの坊！　勝手に何言ってんだぁ！」

突然の怒号にリラがおびえた瞬間、ダイガの頭がはたかれる。
彼の背後には眉根を詰めたこの酒場の店長がいた。

「おまえが、金がないっていうから臨時で雇ってんだ！
　たたき出されたくなかったら、とっとと厨房へ戻れや！」
「あいたた・・・そいつはすいません、でしたっと」

さして痛くもなさそうな表情で言うダイガは、店長とともに厨房へ戻ろうとする。
が、振り返って口を開き、

「ああ、俺は料理するの好きだからサービスは気にしないでくれ！」
「なんで、おまえが勝手にサービス付けてんだ！　このばかたれ！」

またもはたかれるダイガの様子を見て、リラは思わず笑ってしまった。

それが現在、パーティを組んでいるダイガとの出会いであったのだが、
これまでは恐れしかなかった人への印象が、
机の上へと取り出されて置かれたのは、一冊の本。
否、開かれた本にはほとんどが白紙の頁、これは本ではなく少女の日記帳であった。

そこにはこの一週間あまりの出来事などが他愛のない絵などを使って描かれており、
多くの出会いや別れ、さらには驚きなどが感性豊かに表現されいている。
少しの間、これまでの頁を見直しつつリラは微笑を浮かべ、今日のことを書き綴っていく。

『おかあさん、元気ですか。お酒、飲み過ぎてたりしませんか。
　今日も、新しい人たちとパーティを組んでお城のほうまで行ってきました。
　まだ・・・うん、初めての人と一緒に行くのは怖かったのだけども、
　あの人、そうダイガさんっていう傭兵の人が一緒だったのでそんな怖くなかったです』

そこまで書いて、少女はふと手を止めた。
ダイガという傭兵と出会ったのは、数日前のこと。
怖々と出入りしていた街の酒場にて、彼はいた。厨房で料理をしつつ客を出迎える人間として。

入った瞬間に「いらっしゃい、何食べる？」と声を掛けられたのは驚いた。
大抵の人間はリラの容姿を見て、まず躊躇するからである。
だが、ダイガは気にすることもなく酒場の厨房から出てきて、少女と顔を合わせた。

「こんな時間にここへくるってことは、昼たべそこねたんだろ？
　せっかくだからいろいろとサービスしてやるから、そこ座りなーー」
「なにしてんでこのでくの坊！　勝手に何言ってんだぁ！」

突然の怒号にリラがおびえた瞬間、ダイガの頭がはたかれる。
彼の背後には眉根を詰めたこの酒場の店長がいた。

「おまえが、金がないっていうから臨時で雇ってんだ！
　たたき出されたくなかったら、とっとと厨房へ戻れや！」
「あいたた・・・そいつはすいません、でしたっと」

さして痛くもなさそうな表情で言うダイガは、店長とともに厨房へ戻ろうとする。
が、振り返って口を開き、

「ああ、俺は料理するの好きだからサービスは気にしないでくれ！」
「なんで、おまえが勝手にサービス付けてんだ！　このばかたれ！」

またもはたかれるダイガの様子を見て、リラは思わず笑ってしまった。

それが現在、パーティを組んでいるダイガとの出会いであったのだが、
これまでは恐れしかなかった他人への印象が、まるで違うものなったのは彼が初めてだった。
養母とは違う大人、それも自分の容姿を気にもしていない。
もうひとつは彼から感じ取る雰囲気に、少女はどこか懐かしさを覚えていること。

確たる証拠もないただの推論、ただ否定する理由もまたなかった。
まだパーティを組んで数日、ダイガがこれまでどのような過去をもっているかは尋ねてはいない。
ただ、どこかしらの傭兵団に身を置いていた、というぐらいである。

そこに「もしかしたら両親を知っているかもしれない」と一抹の希望を少女は抱き、
不安な手つきとともに「両親に会えますように」と日記へ書き込んで、日記帳を閉じた。

そう言葉を口にした少女をかばようにして、大柄な白虎が現れる

獰猛なうなり声をあげる白虎の隣に、次は黒衣をまとったシツジが現れる。

金色の瞳を輝かして、シツジは細身の剣で身構え、戦闘が始まった。

ウィルトは　ふあんそうだ