女神の園。
　綺麗な花々が咲き乱れ、白無垢の女神の像があちこちにおいてある、幻想的な場所。
　張り巡らされた煉瓦造りの水路には、清らかな水が光を受けて流れている。

　いわゆる、水辺。
　ブリキのからだのボクには、かなり、居づらい場所。


　油を差しては錆をとり、水除けにマシェが造ってくれたふしぎなゆきだるまの雨がっぱをきっちりと羽織る。
　しょーじき、水がいっぱいあるところは、あんまり長居なんてしたくない。
　ボク的には。錆びるし。

　したくはないんだけど、おうさまのところにいくのにはココを通らざるを得ない、のかなあ……？
　ラズロ、とか言った紫のひとは、ボクたちを通すわけはいかないととうせんぼしてたけど、その“通したくない場所”は、彼の後ろに会った光の毀れる先――つまり今までいた女神の園か、単純にその先の暗い場所――つまり地下牢か、そこまではわからない。

　わからないから、手探りで進むしかない。
　ていうかどこをどういけばおうさまに会えるかすらも本気でわからない。
　ほんっと、道案内がいればいいのに―！！

　そんなことをわらわら騒いでいた時に、何でもお城には家付き妖精がいるという噂をどこからともなくマシェが持ってきた。
　そいつはひとについたり建物についたりするらしいんだけど、ちょっとした見返りを渡せばいろいろ手伝ってくれるらしい。
　契約できるみたいだし、ならばいっそそいつに聞いてみよう！　ということに話がまとまって。
　そしてボクらが行ける城内は？　というと……。

「……え、また戻る、の？」
　まあ、そういいますよ、ねー。
　ボクもそこにいこうか！！　とか言われたら、はっきり言っていきたいとかおもわ、ない、もん。
　でも、そこしか、お城の中に、いけないんですよね……ボクらは。
「だいじょうぶ――めがみさまも、そういってるから――」
「へぅ……」


　ということで：ランタンが揺らめくあの地下牢へと、戻ってきた。



「サヤー、千巌は早くここを出たいぞ」
「……」
「どろどろ、どろどろ――」

　前のほうで千巌がぶーぶー。それに対してサヤはなにも返すことなく黙って歩いている。
　ユノやマシェと合わせてわいわいぶーぶーいってるけれど、サヤやボクはひとことたりともかえしてない。

　そりゃそうだ。
　ぶーぶーいったところでいや〜なふんいきがなくなるわけじゃないし、むしろ静かな地下牢が跳ね返ってきてもっかいぶーぶーがボクたちの耳に騒がしく来るだけで。

　要するに、文句言うだけ嬉しくない、が帰ってくるだけって、いう、ね。

「だいじょうぶ――だいじょうぶ――。
　めがみさまも、だいじょうぶっていってるから――」
「その“大丈夫”って何が根拠だかわからないぞ。
　てかソウが契約したその女神様って、黙って目を瞑ってついてきてるだけで今のところ何もしてないだろ」
「……」

　女神の園で出会った、ブリギットという女神様。
　マシェ曰く、癒しの聖女らしいし護って助けてほしい、と、ケイヤクをしてみたのだけど、その後彼女はとりあえず、道中はだま〜ってしずしずついてくる。
　たしかに彼女は、道行では何もしてない。目は閉じていて静かに足音も立てずについてくる、ただそれだけ。

「何もしてない、は、ないよ――？」
「そうなのか？」
「うん――」
「じゃあそいつは、なにをしているんだ？」
「それは、教えられない――」
　しゃべらなかった。ユノ、えらい。
　ちょっと千巌はぶ〜としたけど、まあしかたないね。

　だが彼女は、道行“以外”のところで、いまは動いてくれている。
　あんまりうまくムズカシイことは説明できないボクに代わって、ボクが寝ている（厳密には倒れて気絶してる、なんだけど）間に、ショウやルベウスが彼女と対話してくれたらしい。
　もらったいのちと相談だけど、出来る程度の力添え――今は、ヘイムさんに流れる“死に向かう時間”という流れをせき止めて、ゆっくりにしたうえで、いのちの流れをよくしてそそいでくれている、そうだ。

　当然、ずっとは続かないし、無理に止めているといのち事態も淀んでしまう。
　ので、さくっとたくさんの“いのち”を手に入れて、サクッと治しきれればいいの、だけど……。

　問題は、この３・４日くらいそういう機会自体がなかったこと、なわーけーでー……。
　いのちを司るエンブリオこそ、コトや彼女みたいに出会えたものの、渡す“いのち”が乏しいとさすがにうまくは力を手繰れない。
　機会自体が、あればいいんだけどなあ……と、もやもや。

「ま、いいか。本気でそいつがソウにとって足ひっぱり〜でだめだめ〜だったら、解約してるだろうしなっ！」
　はい、その通りです。
　実際マシェはこの契約のしかただと自分には合わないかも……っていって、解約してたしね。
「さ、って、わざわざ戻ってきたんだし、ぶらうにぃは見つかるかな……？」
「は、はずかしがりやな、妖精さん、だから……見つかる、か、にゃあ……？
　子どもか正直者には、すがたをみせてくりぇる、って……いう、け、どぉ……」
「それ以外だったらどうなるんだ？」
「かくれちゃう」

　それって、会うのすっごくムズカシイんじゃないデスカ？


　そんなことを思っていると、じーっとさやがこちらを見てくる。
　それにつられてマシェも、千巌も、ボクのほうを見てくる。


「うん……この中で“子ども”で“正直者”っていったら、ソウちゃん、よ、にぇ……」

　ぇ？

「ソウは千巌たちに“話さない”ってだけで、嘘はついてないもんなー。すっごーい、まっすぐだもんな」
「そこは、ちーちゃんも、負けてないと思う、にょ……」
「そうか？　千巌はすごくしゃべるぞ！　
　でもソウはからだがわるくてしゃべりづらいんだもんな、そこは仕方ないと思うぞ」
「そうじゃにゃくて……まっすぐな、とこりょ……？」
「それを言ったらサヤもまっすぐだぞ！　おうち帰りたいがびんびんだもんな！」
「まあ……ね。　でも、まあ、この中で一番その条件に合うといったら、ソウよね」

　ぇぇ？？
　あれ、この流れは、もしかして……？

「てーことで、だ！　ソウ、ちょっとぶらうにぃ探してきてくれ！！！」

　ヤッパシデスカ。

「でもあんまり離れちゃダメだからな！　ひとりになったらあぶないからな！！
　千巌たちが駆けつけられる位の範囲で、地下牢のあっちこっち覗いてきてくれ！！！」

　……はーい。

シャリン――、シャリン――
　どこからともなく音がする。

　　　シャリン――、シャリン――
　　　　それは、だんだん近づいてきている、そんな気がする。