サルヴァドールの出身はメルンテーゼではない。
災厄候補という存在が何十年かに一度生まれる、移り気姫の世界Hortensia（オルテンシア）。
停滞と嫌う世界が意思を持ち、変革をもたらす存在を作り出す。


“移り気姫”を見たものは居ない。それが生き物なのか法則なのかそれとも世界そのものなのか、知る者は居ない。
ただ、度々歴史に現れる賢者や魔王や革命家の事を人々は「移り気姫に選ばれたのだ」と言った。
魔法使いやそれに近い存在は選ばれた人間を見抜く目を持ち、彼らの事を災厄候補と呼んだ。

災厄候補は先天的に重度の精神疾患や特殊能力を持つものが多く、
更に併せ持つ強い魔力が災いして文字通り世界の災厄となる者が多い。
極稀に更生して一般の人間と同じように生涯を終えるケースもあるが、
災厄候補たる存在を発見した場合、処分する事が世の安定を願う魔法使い達の習わしとなっている。



サルヴァドールの生まれは山間の小さな集落だった。
グエルは父の家、バッリョは母の家の名で、長子はその両方を継ぐものと決まっていた。
両親を含む集落の人間は皆白色系の肌に金の髪、琥珀色や褐色の眼を持つものが多く、水色の髪や眼を持つものは彼だけだった。
神の子、妖精の子、悪魔の子など様々な根も葉もない噂が立ち、良くも悪くも多くの視線に晒されて育った。
ただの人間の子供でしかなかったサルヴァドールは、色素異常という小さな原因で移り気姫とその世界に選ばれてしまった。
災厄候補のひとりとして。

魔法使い達に処分されるはずだった彼がこうして異世界に立っているのは、ある男の気まぐれに過ぎない。