ーただの日記ー

―○月×日―

小川を抜けると小川だった。
その先もまた小川だった。

俺達は小川の迷宮に迷い込んだのか。














―同日―

そんなわけで、俺達は未だに小川をうろうろしている。
小川を抜けたら、海が見えるかと思ったら全然そんなことは無かった。

そもそも俺達は城内を目指していたのではなかったのか。

完全に目的を見失ってしまっているような気がするが、気のせいであると思う。














―さらに同日―

俺はいま小川の岸に腰をおろし釣りに興じている。
今晩の晩御飯を得るためだ。

帝王イカのような大物は釣れずとも、なにかしら魚を得ようと糸を垂らす。

普段のアクセル全開のような勢いは釣りではまったく不要である。
ただ、糸を垂らしひたすら魚がかかるのを待つ。

糸から伝わる力の伝達。
それだけを頼りに糸を引くのだ。

隣のベルが退屈そうにそれを見ている。
風が涼しい。
ふわりとベルの髪がなびいた。

急になにを言い出すのかと思えば。
そんなわけないといいかけ、ふと思い当たる。

そういえば、コトカと話しているときに即席勇者の話をしたな。

あのことを言っているのか。

そう、確かに一瞬。瞬間最大風速の俺の輝き。
確かにあのとき俺は勇者だったようだ。

持った釣り竿が揺れる。
魚がかかったわけではない。風が少し強いせいだ。
小川が日の光を受けてきらりと光る。

まあ、たいした話ではない。
こんな話を聞くより釣りを見ていたほうがいくらか有意義だろう。
小川のせせらぎをみたいたほうがそれよりさらに有意義であると思う。





俺はそんなことをベルに言う。

しかし、どうやら勇者に興味があるらしい。
おもしろい話ではないんだがなあ。

どうしてそんなに勇者に興味があるのか。
しかし、それなら実際に勇者になった人物の話を聞けばいいのに。




三日天下ならぬ、三日勇者。
そんな話が聞きたいのか？

暇な奴だ。
まあ、釣りの成果も芳しくない。



それはそうだ、この釣り竿餌ついてないし。



俺はかまわず釣糸を垂らしながら、話し始める。



勇者になれると思い込んだ、一人の男が。
自分を特別だと思い込んだ、思い込みたかった一人の男の話。

そんな男を人は何と呼ぶのだろう。
俺は知っている。

そう言って荷台に乗る。縁にしっかりつかま……れなかった。手が出てなかった。
しかたがないのでドライバーを手から外して手を出す。

いつの間にかにんじんが輪切りになっている。しかもトートの心に直接語りかけてくる。
なんて悪質なSPAMなんだ！！

独白の思考すら流れ込んでくる！　制御しきれないタイプのSPAMだ！！